107 女王蜂様 ご先代様「焼酎漬け」に情熱を燃やす
轟音と共に校庭に入って来たのは三台の大型トラック。その荷台は円筒型のタンクが満載。あの中身はやっぱり……
「『焼酎』よん。決まってるじゃない」
「ですよねー。しかし、先生、あの量はなんですか? 「焼酎」のプールで水泳でもする気ですか?」
「それも捨てがたいけど、明日来るっていう『オオスズメバチ』を漬けるための『焼酎』ねん。疲労子ちゃんに言ったら、『先生、もう『焼酎』の在庫ないですよー』とか言ってくれちゃうもんでさ。しょうがないから『蜂幡酒造』のドラゴン社長にタンクごと持ってきてもらったのねん」
「酒蔵からタンク買いですかあ。個人で扱う量じゃないですよ。でも、これだけ用意するってことは、明日は『オオスズメバチ』に勝てると思ってるんですか?」
「それはあんたたち次第なのねん。まあ、あたしはあんたたちが勝った時に『オオスズメバチ』をむざむざ捨てるのはもったいないからねん。備えあれば憂いなしってやつよん」
まあ、そんなこったろうと思いましたよ。
◇◇◇
「よおっ、先生っ! 『焼酎』をタンク買いたあ、随分景気がいい話じゃないですかい」
先頭のトラックの運転席から降りて来たのは、「蜂幡酒造」のドラゴン社長。
この人(?)、もともとカードゲームのキャラクターで蜂野先生の魔法で造り酒屋になったんだよね。
「あー、うまくすると明日『焼酎』に漬ける『オオスズメバチ』が大量に手に入るかもなのよ。ざっと五十匹くらい」
「え? 『オオズズメバチ』が五十匹? 何の話ですかい? そりゃあ」
「まあ、あたしゃあ、もう『ご先代様』だからねえ。詳しいことは北原さんか新川君に聞いて」
全くもって腑に落ちない様子のドラゴン社長。そりゃそうでしょうね。
「さっぱり分からないんだけど、今の話は?」
「明日、五十匹の『オオスズメバチ』が蜂幡市を略奪しに来るのです」
真剣な表情でドラゴン社長の目を見ながら言う紗季未。
「りゃ、りゃくだつ? そいつあ一体?」
「私たちが負ければ、蜂幡市は略奪され、丸ごと潰されます」
「なんですとー」
僕らと同じくらいの身長だったドラゴン社長は咆哮を上げ、巨大化した。
◇◇◇
「許せねえっ! わしも自分の夢を叶え、造り酒屋になったが、みなが夢を叶えて楽しくやっている蜂幡市を潰そうだなんて許せねえっ!」
「社長っ!」
ドラゴン社長と一緒にトラックでタンクを運んで来た猿酒を持ったゴリラと酒の瓶をぶら下げた狸もいきり立った。
「わしらも共に戦いましょう。わしらはもともとカードゲームのキャラクターで戦うのが仕事だった。いっちょ昔に帰りましょうや」
「『蜂幡プロレス』の連中も呼びましょうっ! 言えば一緒に戦ってくれるでしょうっ!」
「おうっ!」
ドラゴン社長は巨大化したまま下にいる紗季未を見て言った。
「新しい女王蜂様。わしらも戦いに加わらせてくだせえ」
紗季未はチラリと僕の方を見た。
うん。大丈夫。あの人(?)たちは元がカードゲームだから、初めから魔法がかかっている。僕はサムズアップした。
そして、紗季未は大きく頷いてからドラゴン社長を見上げて言った。
「ありがとうございます。加わってもらえるとは、とても心強いです」
「ぐおおおおーっ!」
ドラゴン社長は空に向かってブレスを吐いた。うーん。これは頼もしい。
「むっふっふー、『蜂幡酒造』と『蜂幡プロレス』も参戦ねん。これで『オオスズメバチ』の焼酎漬け作れる確率上がったわん」
うーむ。あくまで「焼酎漬け」が主目的なんですね。蜂野先生は。