106 女王蜂様 新しい方は新川君を一喝
蜂野先生の所業は今更だけど、紗季未の表情は暗いまま。
魔法の力が通用することは分かったものの、一匹相手でも苦戦した「オオスズメバチ」がたくさん来るとなると気も重くなるよね。
その時だった。紗季未の左肩にちょこんと座っていた恒未が飛び立つと、紗季未の顔の前で止まった。
「恒未……ちゃん?」
「あうあ」
「うん」
「ああーっあうあうあっ」
「うんうん」
「ああーっあうーああうあっ!」
「うん。分かった」
恒未は僕の娘なんだけど、何を言ったんだかさっぱり分からない。でも、紗季未には分かったみたいで、最後に大きく頷いた。
◇◇◇
「みんなっ!」
紗季未はみんなの方を向いた。二つの画面の向こう側からも見えるみたい。サッカーチームも野球チームもこっちを見ている。
「『オオスズメバチ』は確かに手強い。でも、魔法の力で倒せることが分かったよね」
みんな一斉に頷く。
「明日はたくさんの『オオスズメバチ』が来るっ! でもっ、魔法を使って、みんなで力を合わせればきっと勝てるよっ!」
また、みんな一斉に頷く。
「だから、みんなっ! 力を貸してっ!」
オオーッ 大きな歓声が上がる。
「うーむ、紗季未、立派になったなあ。僕なんかが彼氏でいいのだろうか?」
「何言ってんのっ! こうちゃんっ!」
うわっ、急に紗季未がこっちを向いた。
「魔法の力が必要な以上、一番要になるのは錬金術師でしょっ! しっかりしてよねっ!」
「そうでした。面目ない」
「そうだぞっ! 新川っ! 真面目にやれっ!」
「新川君が気を入れてやってくれないと困るのよね」
「新川っ! このヘタレDTっ!」
そうかぶせるように言わなくても。それにヘタレDTは関係ないじゃん。
◇◇◇
「なるほど。こうちゃんが『錬金術』で作ったものは『オオスズメバチ』に通用するのね」
画面を通じて、紗季未と話しているのは母さんだ。
「そうなんです」
「で、どうなの。『オオスズメバチ』は明日どこを狙ってきそうか分かる?」
紗季未は少し目を閉じ、考えてから言った。
「『オオスズメバチ』の思念を見たら、偵察でこっちの主力がどこにいるか把握したようです。来るのは二つのスタジアムと学校です」
「ふーん」
今度は母さんが少し考え込んだ。
「ねえ。こうちゃんが作る『爆薬』って、サッカーボールや野球ボールの形に出来るの?」
紗季未が僕の方を振り向く。僕はすぐに頷く。
「出来るよ。母さん」
画面の向こうで母さんも頷く。
「OK! それじゃどんどん作ってこっちへ持って来て。えーと、運ぶのは……」
「それは僕たちにやらせてもらえませんか?」
名乗り出たのは片葉兄弟に節藁野君。
「ハチロクもRX-7もあまり量は積めませんが、その分スピードが出ます。ピストン輸送で届けますよ」
「ぼくの『どこへでも行けるドアー アトランダム』も使って~」
おお、ダラえもん。しかし、そのドアは……
「一億回くらい開け閉めすれば目的の場所に繋がるから。今回は特別サービスで僕が開け閉めしてあげる~」
そうか。それは君に任せた。当てにしないで待ってるから。
「私たちは『錬金術』のための素材を取ってきます」
これは「農場物語」のゲームキャラの女の子たち。僕が杖を振ったら、素材の種類と在り処はすぐ伝わり、女の子たちは採取に向かった。
◇◇◇
「こうちゃん。こうちゃん。この人たちが……」
紗季未に言われて振り向くと、「のぼり坂くだり坂ま坂46」に「辛」のメンバーたち。
「自分たちも役に立ちたいけど、歌と踊りしか出来ないって……」
「うーん。あっ、そうだ! 紗季未。一緒に観に行った『劇場版アクロスエクスプローラー』覚えてる?」
「え? アクロス? あ……」
「うん。あれに歌で戦闘員に力を与えるってのがあったじゃない。あのやり方で出来ないかな?」
「うん。やってみるね」
◇◇◇
みんな積極的にやってくれるから助かるよ。だけど僕は「錬金術」でいろいろなものを調合しなくちゃいけない。
M1エイブラムスとプロサッカーチームとプロ野球チームが使う「爆薬」。大暴れ大将軍の使う「魔法の矢」。魔法使いの田中さんと僕自身のために使うMP回復のための「ポーション」。「傷薬」と「疲労回復薬」も必要だろう。それも大量に。
ふぅー おっと、溜息を吐いている時間が惜しいぞ。
ゴゴゴゴゴ
そんな僕に轟音が聞こえて来た。なんだ? まさか「オオズズメバチ」?
「来たわん。来たわん。待ってたわん」
蜂野先生が喜んでいるぞ。校庭に入って来たあれは何だ?