105 女王蜂様 ご先代様 「オオスズメバチ」を怒らす
「紗季未、どうしたの? まだ問題は解決してないの?」
僕の問いに紗季未は小さく頷く。
「!」
周囲に衝撃が走る。何があるのだろう。
紗季未はゆっくりと口を開く。
「残念だけど、『オオスズメバチ』はあれ一匹だけではなかったの」
ざわっ
ざわめきが起こる。そんな中、紗季未は静かに蜂の針を振る。
空中に二つの巨大画面。それを見てみると……
蜂幡市に本拠地を置く二つのプロスポーツチーム。サッカーの「蜂幡フットボールクラブ」と野球の「蜂幡クインビーズ」のスタジアムの上空に「オオスズメバチ」が一匹ずつ飛んでいる。くそっ、他にも偵察がいたのか。
両方のスタジアムとも選手たちが上空の「オオスズメバチ」を指差してざわついているが、サッカーの方で僕の母さんが映った。
「おねえさんっ!」
紗季未も気付いたらしく、母さんに呼びかける。
「あ、紗季未ちゃん。何なのよ。あれ。変なんが飛んで来ちゃって練習にならないんだけど」
「あれは『オオスズメバチ』。私たちの天敵です。蜂幡市を略奪しにくる種族の偵察兵です」
「りゃくだつー?」
母さんの顔が怒りに変わる。
「随分、ふざけた奴が来てくれたもんね。どうすれば『オオスズメバチ』を止められるの?」
「それは『オオスズメバチ』を撃ち落とせば「うおおおーっ! こんちくしょーがっ! たたき落としてやるっ!」
紗季未が言い終わる前に「蜂幡フットボールクラブ」の選手たちは手元のサッカーボールを蹴るわ、投げるわで「オオスズメバチ」を攻撃し始めた。うーん。血の気が多い。見ると「蜂幡クインビーズ」の選手も野球のボールを打つわ、投げるわで「オオスズメバチ」を攻撃している。
だが、駄目だ。普通のサッカーボール、野球のボールでは「オオスズメバチ」にダメージを与えられない。僕が「錬金術」で作った「爆薬」は使い果たしてしまっている。ここは大急ぎで追加調合して……
「こうちゃん」
「ん? 何? 紗季未」
「『爆薬』の調合は今はいい」
「え? どうして?」
「『オオスズメバチ』はもう立ち去るから」
見ていると「オオスズメバチ」はきびすを返し、飛び去って行く。これは追い払うことに成功した?
紗季未はまたも、目を閉じて、下を向き、首を横に振る。
「残念だけど、『オオスズメバチ』は偵察兵。明日には本隊の大群を連れて、また来る」
「どっ、どうして、分かるの?」
「『オオスズメバチ』の思念が伝わってきた。蜂幡市を略奪する価値のある豊かな町と判断したのが理由の一つ。そして、もう一つの理由は……」
「もう一つの理由は?」
「私たちが一匹の『オオスズメバチ』を倒したことはともかく、蜂野先生がそれを『焼酎漬け』にしたことを結構怒ってるみたい」
先生ー、やってくれましたね。