101 女王蜂様 新しい方は勘がいい?
ズドドドバガーンッ
凄まじい爆発音が起こり、粉塵が舞った。
これなら「オオスズメバチ」を倒せなくても、相当なダメージを与えられるはず……
え? 思わず目を疑った。
「オオスズメバチ」は何事もなかったようにホバリングしていた。
「……」
さすがに紗季未の顔にも緊張感が走る。
「何とかせねば…… 先生っ! 蜂野先生っ!」
「ずずずー なによお。まだ、ビールが残ってんのよお」
「そんなことより、あの「オオスズメバチ」。弓矢で射ても、砲弾で撃っても、ノーダメージなんですよおっ!」
「ずずずー ああもう飲んじゃった。で、なんだって? 物理的攻撃を受け付けないなら、呪文でも唱えれば? 『チチンプイプイ』とか『アブラカタブラー』とかさ」
そんな無茶な……
◇◇◇
だけど、紗季未は顔を上げた。え? 今ので何か伝わったの?
「田中さん。『オオスズメバチ』に攻撃魔法をかけられる?」
頷く田中さん。彼女は「ドラゴンコンクエスト」パーティーの魔法使いだ。彼女が木の杖を一振りすると、一筋の炎が中空に走り……
ズドーンッ!
おおっ、効いているぞっ! 物理的攻撃でビクともしなかった「オオスズメバチ」がぐらついたっ!
♪ちゃちゃちゃんちゃんちゃんちゃん ちゃんちゃ~ん ちゃちゃちゃちゃ~ ちゃちゃちゃちゃ ちゃ~ら~
BGMは欠かさないですね。さすが安定です。蜂野先生。
「あ~、次は『焼酎』がほしいわ」
そこもさすが安定です。蜂野先生。
◇◇◇
「やった! 効いてますっ! 田中さん、続けてできますか?」
紗季未の言葉に田中さんはまたも頷き、更に木の杖を振る。
ズドーンッ!
「ああっ、もしもしっ! 疲労子ちゃん、『焼酎』のボトル三本持って来て。大至急っ! え? 大きさ? あの四リットル入りのペットボトルに決まってるじゃない」
ズドーンッ!
「え? コップ? ジョッキ持って来て。え? 割るもの? ストレートで飲むからいらな~い」
ズドーンッ!
これを「安定」と呼ばずして何を「安定」と言えばいいのだろう。天敵の「オオスズメバチ」に魔法攻撃をかけている中でスマホで「焼酎」の発注をする蜂野先生。それも自分一人で飲むために……
しかし……
◇◇◇
ここで崩れ落ちる魔法使いの田中さん。どうしたのっ?
「MPが切れたの」
ええっ? 「オオスズメバチ」はダメージを与えたとはいえ、まだ飛んでいるのに。
「回復するにはどうしたらいいの?」
うーむ。冷静な紗季未女王蜂様。
「ポーションがあれば回復するんだけど、ちょうど切らしてて……」
僕の方を振り向く紗季未。
「こうちゃん。『錬金術』でポーションは作れる?」
いや、「ポーション」はまだ作ったことがない……って、あれ?
頭の中にイメージが湧いてくる。必要な素材、調合の仕方、これが「錬金術師」の力……
調合できなくはない。でも、素材が足りない……
「それは俺たちが取って来るっ! 場所と必要な素材を教えてくれっ!」
勇者の伊藤、武闘家の鈴木、僧侶の中村さんから声が出る。
うん。取ってきてくれ。僕は杖を一振り。これで伝わった。伊藤たちはダッシュで素材を取りに向かう。
「こうちゃん。これで何とかなりそう?」
紗季未の問いに僕は首を振る。
「できることはできるけど調合に二時間くらいかかる」
「私と飛得が手伝えば?」
三俣はこう言ってくれたが、だめだ、それでも一時間半はかかる。
重苦しい雰囲気が流れた時、不意に声がした。
「毎度っ!」
「もう待ちくたびれたわん。早く早くう」
はああああ。何かと思えば、蜂野先生のところに疲労子さんが「焼酎」を届けにきたんだ。
「もうジョッキに入れるのめんどくさいわん。このまま行くわん」
と言うが早いか蜂野先生は四リットルの「焼酎」のペットボトルを両手で抱えて、ラッパ飲み。
はああああ、僕が二回目の大きな溜息を吐いた、その時、紗季未が一言。
「そうだ。上手く行くか分からないけど、この手はどうかな?」