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吸血鬼さんのおもてなし ~ 旅と歴史とダンジョンと  作者: ミュスター観光騎士団
主教の丘ビショップベルク教会のダンジョン
98/103

98. 日記

 私たちは夕方になる前に大図書館を後にした。

 ホテルまでの送迎も希望せず、上永谷氏と蒔田は去っていった。


 私の手元にはエルフの碩学ヨルゲンの日記だけが残された。

 これを調べてみなければ。


 私たちは日が暮れる前に、古い修道院を改装したミッションインに戻った。

 厳かな外装に、現代的な内装。


 私は日記を床に広げて日付の順に並べた。

 欠けている部分もあるが、大半は揃っているようだ。


「何が書かれているか、いよいよですね」


「ルビー、読んでみてくれ」


 100年以上前の古文書を、私は読み始めた。


「"蒔種の月。勇者の転生について、情報が揃ってきた。人間たちは次の勇者となる者を見つけ出し、その者を勇者の器とする。そして、勇者の死の間際に、勇者を勇者の器に転生させていた。

 器となる者と勇者の間に血の繋がりはない。しかし、転生後はその身体の特性を引き継ぐことから、若く健康な者が器に選ばれている。

 次は人間たちがどのような方法で転生を実行しているのか、調べなければならない"」


 ヨルゲンは勇者の転生について研究していた。

 それは戦争中から続けられてきたようだ。


「"恵雨の月。魔王の容態が良くない。早く転生の秘法を見つけ出さなければ。しかし、その方法を魔族に適用できるかどうかが分からない以上、保険をかけておくことも必要だ。

 魔王を少しでも回復させるため、強大な魔法陣を設計することにした。研究の成果が得られるまで命を繋いでもらわなければ、これまでの努力が水泡に帰す。

 回復魔法に気を取られるのは本意ではないが、仕方ない。これもすべて魔王と魔族のため"」


 ヨルゲンはフェノスカーディナ公国にいながら、魔王お抱えの研究者のような立場だったようだ。

 遠方から使い魔を使って、王都と連絡を取っていたのだろう。


「"栽培の月。人間は人間同士で転生を行っているが、同じ種族でしか転生ができないわけではなかった。実験の結果、魔族から人間への転生が可能であることが判明した。

 しかし、魔族から魔族への転生はどうしてもできなかった。問題は解決できていない。転生後の種族が人間であることが必要だった。だが、脆弱な人間の身体が転生に耐えられるかどうかは半々程度。

 別のアプローチが求められている"」


 この日記を境に、日付は飛んだ。

 私が勇者を倒した頃に、日記は再開した。


「"真央の月。人間との戦争は終結した。この日が勝戦記念日として歴史に残るのだ。実に素晴らしい。今夜は取っておいた蜜酒を開けよう。

 それに今日は新たな発見があった。元が人間であった魔族も、転生の器として使えることが分かったのだ。実験では吸血鬼が最も高い適応性を見せた。

 吸血鬼を魔王の器として用いることで、転生は成功するだろう"」


「これってつまり……」


「"南中の月。器の候補者が見つかった。勇者を殺した吸血鬼。元は人間。これぞ、まさに神の配剤! これほどの逸材を逃す手はない。

 器となる者が失踪したり傷ついたりしないように、身体を保存しておくべきだ。人間との和平のためだとか、理由はうまく誤魔化して納得させればいい。まずは器を確保するのだ。

 たとえワインが熟成しても、グラスが欠けていては意味がない"」


 そこには秘密の核心が書かれていた。

 私は魔王を転生させるため、魔王の器に選ばれた。


 そして、転生の準備が整うまで眠らされていた。

 人間との和平条約など、無関係に。

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