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吸血鬼さんのおもてなし ~ 旅と歴史とダンジョンと  作者: ミュスター観光騎士団
主教の丘ビショップベルク教会のダンジョン
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97. 機密文書

「危ないところだった。ありがとう、エメット」


「面倒をかけて、すまなかった。ありがとう」


「私だって、やればできるってことです! まぁ、少し時間がかかっちゃいましたけど……。ご無事で何よりです」


 エメットの活躍で、私たちは窮地を脱した。

 あれだけ混沌とした状況で、エメットは冷静だった。


「でも、折角の書類を撃ってしまって、すいません」


「いや、いいんだ」


 上永谷氏の視線の先には蒔田の姿があった。

 蒔田は床に散らばった書類を集めていた。


「元々、処分する予定だった。あってはならないものなのだから」


「どういうことなのじゃ?」


「これで全部です」


 書類を腕に抱えて、蒔田が戻ってきた。

 上永谷氏は束になった書類を自分のリュックサックに詰め込んだ。


「これは……自衛隊員がスカーディナ王国で治療を受けたという記録なんです」


「それって……」


「つまり、戦闘があったということだ。だから、それを部外者に知られるわけにはいかない」


 上永谷氏は静かに述べた。


「戦闘に参加したとなれば、自衛隊が非戦闘地域で活動しているという名目が失われることになる。隊員を戦闘地域に送り込み、危険に晒したということになれば、海外派遣は二度とできなくなるだろう」


「だが、それを知られたくらいで……」


「あってはならないことだ。絶対に」


 上永谷氏の言葉には有無を言わせない力があった。


「防衛庁長官の、ひいては総理大臣の指示もなく戦闘地域に派遣されたとなれば、シビリアン・コントロールが効いていないという非難も浴びることになる。今の防衛省でも当時の指示が適切であったか、調査されるだろう。この事件をきっかけにマスコミは自衛隊を蔑み、国民は裏切られたと考える。そのようなことは避けなければならない」


「まさか、都合の悪い証拠を消すために、ここまで来たと言うんですか」


「違う。これは我が国の、そしてエルヴェツィア共和国の安全保障に関わることだ。自衛隊やアメリカ海兵隊が派遣されなくなれば、次に戦争が起こった時にどうする? 護るべき者を見捨てるのか?」


「そのために他人を危険に晒すというのなら、それは間違いだ」


 リーズ様は上永谷氏に冷たい視線を向けた。

 上永谷氏は小さく溜息をつき、頭を振った。


「それならどうする? 公言するのか? だが、君たちが政治的野心を抱いていないことは確認済みだ」


「まぁ、ただの観光ガイドですからね、あたしたちは。安全保障なんて興味ないですよ」


「君たちには理解できないだろう。国を護るということが、どういうことか。しかし、理解してもらう必要もない。用は済んだ」


 国を護るということは重要だ。

 戦わずして国を護ることはできない。


 だが、戦争中の私には護るべきものはなかった。

 平和が訪れることを考えてはいたものの、ただ殺戮を繰り返していただけだ。


 上永谷氏の言葉に、私は納得するしかなかった。

 平和を護るということもまた、戦いなのだと。

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