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吸血鬼さんのおもてなし ~ 旅と歴史とダンジョンと  作者: ミュスター観光騎士団
主教の丘ビショップベルク教会のダンジョン
96/103

96. 弾丸

 本の濁流が、リーズ様と上永谷氏の閉じ込められた檻に降り注ぐ。

 既に腰の辺りまで本が積み重なっている。


 2人はもう満足に動くこともできない。

 早く救出しなければ。


「このままではおしまいだ……」


「エメットさん、罠を解除する鍵がこの部屋にあるんですか?」


「大規模な罠ですが、外には罠の気配はありませんでした。この部屋で仕掛けが完結しているはずです」


 今はエメットの言葉を信じるしかなかった。

 しかし、ここにある本には奇妙な罠が仕掛けられている。


 魔本の群は倒したものの、また罠の本を読めば召喚されるかも知れない。

 罠について素人の私たちは、エメットに任せるしかなかった。


「きっと、部屋の上部に本の流れを生み出している仕掛けがあると思います。そこまで行けば、きっと罠を解除する手掛かりがあるはず」


 私はエメットの言葉を信じて、壊れかけた梯子にエメットを押し上げた。

 エメットはうまく梯子を上り、吹き抜けになっている部屋の2階部分へと移動した。


「きっと、この部屋の中で最も重要な本……。隠されている本……」


 エメットの小さな腕が本の山をかき分ける。

 時間がない。


「さっき、蒔田さんが指差した書類が無くなってる……! きっとあの書類が鍵のはずです!」


「どこにあるの……?」


 部屋が振動する度に書架が左右に動き、私たちを阻む。

 このどこかに機密文書があるはずなのに。


「あっちにあるのじゃ!」


 こんちゃんが指差した方向を見る。

 天井に近い2段重ねの書架の上部に、書類は並んでいた。


「エメットさん、急いでください!」


 エメットは降り注ぐ本の雨を避けながら、向かい側に建つ書架へと走った。

 しかし、書類を守るように本の雨がエメットを襲う。


「それ以上、先に進んだらエメットさんが危険です!」


「でも、私が罠を解除しなかったら……!」


 全滅。

 私の脳裏に最悪の単語が浮かんだ。


「あの辺りにある本すべてを焼き払うのは?」


「ダメです! 他の罠が動き出す危険があります!」


「ではどうすれば!」


「……」


 震える手で、エメットは拳銃を抜いていた。

 書類をまっすぐ見据えて拳銃を構える。


 銃声。

 反動でエメットは後ろに吹き飛ばされた。


「エメットさん!」


「だ、大丈夫なのか?」


 エメットはゆっくりと起き上がった。


「銃なんて、初めて撃ちましたよ……」


 本の流れが弱まっていく。

 檻を形作っていた本も、まるで意思を失ったかのように崩れ落ちていく。


「終わった……?」


 銃弾は書類を撃ち抜いていた。

 風穴の空いた書類はバラバラになって大広間に散らばる。


 本の山から這い出たリーズ様と上永谷氏は大きく息を吐いた。

 2人とも、大きな怪我もないようだった。

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