96. 弾丸
本の濁流が、リーズ様と上永谷氏の閉じ込められた檻に降り注ぐ。
既に腰の辺りまで本が積み重なっている。
2人はもう満足に動くこともできない。
早く救出しなければ。
「このままではおしまいだ……」
「エメットさん、罠を解除する鍵がこの部屋にあるんですか?」
「大規模な罠ですが、外には罠の気配はありませんでした。この部屋で仕掛けが完結しているはずです」
今はエメットの言葉を信じるしかなかった。
しかし、ここにある本には奇妙な罠が仕掛けられている。
魔本の群は倒したものの、また罠の本を読めば召喚されるかも知れない。
罠について素人の私たちは、エメットに任せるしかなかった。
「きっと、部屋の上部に本の流れを生み出している仕掛けがあると思います。そこまで行けば、きっと罠を解除する手掛かりがあるはず」
私はエメットの言葉を信じて、壊れかけた梯子にエメットを押し上げた。
エメットはうまく梯子を上り、吹き抜けになっている部屋の2階部分へと移動した。
「きっと、この部屋の中で最も重要な本……。隠されている本……」
エメットの小さな腕が本の山をかき分ける。
時間がない。
「さっき、蒔田さんが指差した書類が無くなってる……! きっとあの書類が鍵のはずです!」
「どこにあるの……?」
部屋が振動する度に書架が左右に動き、私たちを阻む。
このどこかに機密文書があるはずなのに。
「あっちにあるのじゃ!」
こんちゃんが指差した方向を見る。
天井に近い2段重ねの書架の上部に、書類は並んでいた。
「エメットさん、急いでください!」
エメットは降り注ぐ本の雨を避けながら、向かい側に建つ書架へと走った。
しかし、書類を守るように本の雨がエメットを襲う。
「それ以上、先に進んだらエメットさんが危険です!」
「でも、私が罠を解除しなかったら……!」
全滅。
私の脳裏に最悪の単語が浮かんだ。
「あの辺りにある本すべてを焼き払うのは?」
「ダメです! 他の罠が動き出す危険があります!」
「ではどうすれば!」
「……」
震える手で、エメットは拳銃を抜いていた。
書類をまっすぐ見据えて拳銃を構える。
銃声。
反動でエメットは後ろに吹き飛ばされた。
「エメットさん!」
「だ、大丈夫なのか?」
エメットはゆっくりと起き上がった。
「銃なんて、初めて撃ちましたよ……」
本の流れが弱まっていく。
檻を形作っていた本も、まるで意思を失ったかのように崩れ落ちていく。
「終わった……?」
銃弾は書類を撃ち抜いていた。
風穴の空いた書類はバラバラになって大広間に散らばる。
本の山から這い出たリーズ様と上永谷氏は大きく息を吐いた。
2人とも、大きな怪我もないようだった。




