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吸血鬼さんのおもてなし ~ 旅と歴史とダンジョンと  作者: ミュスター観光騎士団
主教の丘ビショップベルク教会のダンジョン
94/103

94. 本の山

 図書館の狭い通路を歩いていくと、やがて通路が広がり、その突き当りに巨大な扉が現れた。

 書架と階段ばかりの図書館で、今までに見たことがない構造物だ。


 この先に部屋があるとすれば、そこには何かがあるか、それとも何かがいるのだろう。

 用心に越したことはない。


「この中に何かあるかも知れない。調べよう」


 上永谷氏は警戒しながら扉に近づいた。

 しかし、上永谷氏が手をかける前に、両開きの扉は勝手に開いた。


「きっと罠じゃ。やめておいたほうが良いのじゃ」


 こんちゃんの不安気な言葉に、私たちも同調する。

 しかし、この程度のことで上永谷氏と蒔田の2人が引き下がるわけがなかった。


「鍵開け師が先に行け」


 上永谷氏に言われるがまま、エメットは扉に向かった。


「薄暗いですね。床に感圧式の罠があるかも知れません」


 エメットは自衛隊のブーツを脱ぎ捨て、ゆっくりと部屋に入っていった。

 扉と入口付近に罠が仕掛けられていないことを確認すると、エメットは私たちを中に招き入れた。


 部屋は大広間で、やはり壁を埋め尽くすように背の高い書架が並んでいる。

 書架の側面につけられた小さな燭台では、青い焔が揺らめいている。


 その光は神秘的で、この部屋が特別であることを感じさせていた。

 エメットの小さな影が青い焔の間をすり抜ける。


「私が指示したところだけを通ってください」


 私たちはエメットが示した床の上だけを歩いた。

 だが、その時、蒔田が声をあげた。


「上永谷さん、例の書類です」


 蒔田の指差した先は、梯子を使わなければ届かない書架の上部だった。

 そこには几帳面にファイリングされた分厚い文書が収められている。


 ファイルにはスカーディナ王国の象徴である、百合の印章が押されていた。

 スカーディナ王国の国防省で作られたものだ。


「蒔田、回収を」


 上永谷氏の言葉に、蒔田が書架へと歩み寄っていく。


「ちょ、ちょっと、変なことしないで!」


 エメットが口を開くのと同時に、部屋全体が揺れ始めた。

 書架から雪崩のように本が落ちてくる。


「まずいぞ!」


 溢れるほどの本の山の中で、私たちの隊列は乱れた。

 リーズ様と上永谷氏が部屋の奥へと押し流される。


「リーズ様!」


 私が駆け寄ろうとした瞬間、本の山が盛り上がり、まるで檻のように立ち塞がって私たちを分断した。

 これは間違いなく罠だ。


 エメットは書架の梯子を上って本から退避していた。

 私たちも逃げなければ本の波に巻き込まれる。


「完全に閉じ込められた」


 リーズ様は本の檻に手をかけたが、びくともしない。


「すいません、私のせいで――」


「そんなことはいいから、早く罠を解除しろ!」


 巨大な本の檻の中に、次々と新しい本が流れ込んでいる。

 このままでは閉じ込められた2人が死んでしまう。


 すぐになんとかしなくては。

 私たちは最大の危機を迎えた。

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