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吸血鬼さんのおもてなし ~ 旅と歴史とダンジョンと  作者: ミュスター観光騎士団
主教の丘ビショップベルク教会のダンジョン
91/103

91. 公爵の大図書館

 扉の先には、古書の詰まった木製の書架が一面、見渡す限りに建ち並んでいた。

 床の上にも平積みになった本が山ほど置かれている。


「ここが……ダンジョン……?」


 埃にまみれた書架全体に不気味な雰囲気が漂っている。

 ただの本ではなく、魔力が宿った魔本が収められているのだろう。


 ここには罠も仕掛けられているに違いない。

 内部には煌々と明かりが灯されているが、一方で重苦しい空気に押し潰されそうになる。


「"公爵の大図書館"と呼ばれている。公爵領時代に造られた。蔵書の中には廃棄された機密文書が含まれている」


「機密文書?」


「君たちが知らなくていいものだ。これを」


 上永谷氏が私たちに武器と防具を手渡す。

 自衛隊が使っている迷彩柄の作業服に、アーミーナイフと現代兵器(モダン・ウェポン)


「こんなの撃ったことないですよ。拳銃でも両手じゃないと持てないですし、あたしが持てるのはキーピックまでです!」


「君が鍵開け師ということは調べてある。だが、念の為だ」


 上永谷氏に差し出されたキーピックと弾薬を、エメットは渋々受け取った。


「軍隊の信号ラッパなのじゃ……楽器はこれだけなのか?」


「これだけだ」


「うぅむ……それで我慢するのじゃ」


 慣れない装備にエメットもこんちゃんも戸惑いを隠せない。

 ナイフ一本で満足に戦えるのは私だけだろう。


「万が一、戦闘になれば私は前衛に、彼女は後衛に回る。連携を忘れるな」


 どうやら、二人は単なる事務職ではないようだ。

 本当に自衛隊員なのかも知れない。


 しかし、野良スクワッドにいきなり連携を求めないで欲しい。

 下手すればお互いの足を引っ張り合うことになる。


 私とリーズ様と上永谷氏が前衛、こんちゃんとエメットと奥さんが後衛。

 バランスは取れているが、それだけで無事に生き残れるわけではない。


 必要なのは知識と経験と、相性だ。

 相性が悪い相手に自分の命を預けることなどできない。


「ところで、お二人は本当に夫婦なんですか?」


「違う。彼女は蒔田(まいた)。私の部下だ」


 上永谷氏と蒔田は極めて冷静な態度のままだ。

 彼らは仕事上の付き合いしかないのだろう。


「今回はダンジョンの深層に向かう可能性がある」


「何ですって?」


「時間までにホテルに戻らなければ怪しまれる。急ぐぞ」


 上永谷氏は本の山を避けながら進み始める。

 私たちは慌てて後を追う。


 きな臭い2人に奇妙なダンジョン。

 もう引き返せない。


 上永谷氏、私、リーズ様、こんちゃん、蒔田、そして最後尾にはエメットが並ぶ。

 こんちゃんが蘇生魔法を使えるとはいえ、 浅層で魔法使いを消耗させるわけにはいかない。


 いざとなれば私が皆を護る。

 それが深層に辿り着く安全な方法のはずだ。

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