91. 公爵の大図書館
扉の先には、古書の詰まった木製の書架が一面、見渡す限りに建ち並んでいた。
床の上にも平積みになった本が山ほど置かれている。
「ここが……ダンジョン……?」
埃にまみれた書架全体に不気味な雰囲気が漂っている。
ただの本ではなく、魔力が宿った魔本が収められているのだろう。
ここには罠も仕掛けられているに違いない。
内部には煌々と明かりが灯されているが、一方で重苦しい空気に押し潰されそうになる。
「"公爵の大図書館"と呼ばれている。公爵領時代に造られた。蔵書の中には廃棄された機密文書が含まれている」
「機密文書?」
「君たちが知らなくていいものだ。これを」
上永谷氏が私たちに武器と防具を手渡す。
自衛隊が使っている迷彩柄の作業服に、アーミーナイフと現代兵器。
「こんなの撃ったことないですよ。拳銃でも両手じゃないと持てないですし、あたしが持てるのはキーピックまでです!」
「君が鍵開け師ということは調べてある。だが、念の為だ」
上永谷氏に差し出されたキーピックと弾薬を、エメットは渋々受け取った。
「軍隊の信号ラッパなのじゃ……楽器はこれだけなのか?」
「これだけだ」
「うぅむ……それで我慢するのじゃ」
慣れない装備にエメットもこんちゃんも戸惑いを隠せない。
ナイフ一本で満足に戦えるのは私だけだろう。
「万が一、戦闘になれば私は前衛に、彼女は後衛に回る。連携を忘れるな」
どうやら、二人は単なる事務職ではないようだ。
本当に自衛隊員なのかも知れない。
しかし、野良スクワッドにいきなり連携を求めないで欲しい。
下手すればお互いの足を引っ張り合うことになる。
私とリーズ様と上永谷氏が前衛、こんちゃんとエメットと奥さんが後衛。
バランスは取れているが、それだけで無事に生き残れるわけではない。
必要なのは知識と経験と、相性だ。
相性が悪い相手に自分の命を預けることなどできない。
「ところで、お二人は本当に夫婦なんですか?」
「違う。彼女は蒔田。私の部下だ」
上永谷氏と蒔田は極めて冷静な態度のままだ。
彼らは仕事上の付き合いしかないのだろう。
「今回はダンジョンの深層に向かう可能性がある」
「何ですって?」
「時間までにホテルに戻らなければ怪しまれる。急ぐぞ」
上永谷氏は本の山を避けながら進み始める。
私たちは慌てて後を追う。
きな臭い2人に奇妙なダンジョン。
もう引き返せない。
上永谷氏、私、リーズ様、こんちゃん、蒔田、そして最後尾にはエメットが並ぶ。
こんちゃんが蘇生魔法を使えるとはいえ、 浅層で魔法使いを消耗させるわけにはいかない。
いざとなれば私が皆を護る。
それが深層に辿り着く安全な方法のはずだ。




