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吸血鬼さんのおもてなし ~ 旅と歴史とダンジョンと  作者: ミュスター観光騎士団
始まり
9/103

9. 吸血鬼、世界遺産に向かう

 館にやってきたリーズ様は開口一番に言った。


「すまないが、私に聞くより職安に行ったほうが良いのではないか」


「ですよね」


 勿体無いお言葉だったが、職安に行ったからといって現在の状況が改善されるとは思えなかった。

 時代に取り残された経験0の吸血鬼が働く場所も無さそうだし。


「そういえば、リーズ様はどのようなお仕事を」


 なんとか話の緒を掴もうと思い、私は尋ねた。


「私は聖堂騎士だ」


「まぁ、要するに警備員なんですけどね」


 エメットが付け加えた。

 情報が光速で飛び交う現代に、聖堂騎士の役目は無いようだった。


「警備員だが、勤務中は制服として聖堂騎士の甲冑も身に着けている。そのほうが観光客の受けも良いからな。それに、騎士団にも所属しているし」


「あたしと二人しかいないですけどね、その騎士団も」


「くっ……!」


 リーズ様はその場で膝をついた。

 相当に屈辱だったらしい。


「……リーズ様は聖堂騎士兼警備員なのですね」


「でも、こんな田舎ですから。稼げない時には観光地でバイトもしてますよ」


 エルヴェツィア大陸は人間にとっては魔界そのものだった。

 好奇心を刺激され、そのようなエキゾチックな場所を旅行してみたいと思うのは自然な流れである。


 人間たちが落とす金銭は、地球では発展途上国のエルヴェツィア共和国にとって見過ごせないものだ。

 だから、エルヴェツィア共和国では観光業に力を入れている。


「とりあえず、ルビーさんも観光地でバイトしてみませんか? 昔のことに詳しいなら、観光ガイドとかできそうですし」


「観光ガイド……ですか。あまり人前では話したことがないのですが……」


「その辺りは私たちがサポートする。私たちと観光地で働こう」


 リーズ様は乗り気だった。

 リーズ様と一緒であるなら、働くのも悪くない。


 バイトすると決まれば善は急げ、だ。

 私とリーズ様とエメットはすぐにミュスター郡の集落にある観光スポット、センフェス・イオシフ教会に向かった。


 私の館は山裾に建っており、山間部の集落に行くだけでも相当な時間を要する。

 近所のスーパーマーケットですら空を飛んでも45分かかる。


 エメットは山間の住宅地から自転車で1時間弱かけて館に来ていたというのだから、意外と健脚だ。

 そういうわけで、教会まで徒歩だと2時間以上かかってしまうので、リーズ様が運転する自動車に乗った。


 自動車は快適である。

 車内の揺れは竜車と違って少ないし、エアコンがついているので外気温を気にすることもない。

 (竜車は羽の無い竜が牽く車のこと。)


 急カーブの多い山道を下ると、窓の外には峰に雪を乗せた春先の山々が見える。

 空は青く晴れ渡り、雲ひとつ見当たらない。


 吸血鬼が日光の下に出られないというのは俗信である。

 その程度で灰になって死んでいたら生きていけない。


 日傘くらいは差すが。


 やがてセンフェス・イオシフ教会が近づいてきた。

 教会は周辺の集落にいくつかあるが、この教会は他とは違う点があった。


 それは、この教会が世界遺産登録されているということだった。

 つまり、観光地としてだけではなく、文化的な建築物としても重要なのだ。


 エルヴェツィア共和国を含めて魔界の国々はいずれも国際連合に加盟していない。

 だが、国際連合教(ユネ)育科学文化機関(スコ)には加盟している。


 人間は魔族を地球の一員と見なす以上、魔族を友好的な種族に変えるべきだと考えてきた。

 そうした考えに基づく施策の一つが、教育や文化、科学に関する活動に魔族を引き入れることだった。


 地球で暮らす以上、魔族の子供であっても地球について学ぶ必要がある。

 さらに、世界遺産を登録して魔族の文化も認めてくれるというのだから言うことはない。


 ただし、ユネスコが魔族との関係を通じて変質し、政治的な活動をしているという理由で、アメリカ合衆国をはじめユネスコから脱退した国もある。

 外交の世界は三方良しとはならないようだった。


「着いたぞ」


 かくして私たちは世界遺産、センフェス・イオシフ教会に到着した。

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