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吸血鬼さんのおもてなし ~ 旅と歴史とダンジョンと  作者: ミュスター観光騎士団
主教の丘ビショップベルク教会のダンジョン
89/103

89. 主教の丘

 フェノスカーディナ女公クリスティアーネ4世は数多くの建築を残した。

 スロットシュル島から北に500mほど移動すると、今度は夏の離宮として造営されたローセンボルグ城が見えてくる。


 今では公爵、そして王室縁の品々が展示されている宝物館になっている。

 宝石を散りばめた冠や笏が観光客の目を引く。


 公爵領の時代に魔王から下賜されたという宝玉は紅く輝き、魔法に感応しやすい者は公爵の姿を幻視するという。

 私は残念ながら誰も見えなかった。


「興味深い品々が見られました。素晴らしいですね」


「他にも植物博物館や地質学博物館もありますが、如何ですか?」


「そうですね。でも、そろそろビショップベルク教会を見てみたいんですが」


 上永谷氏は先ほどから腕時計を何度か確かめている。

 他にも見ていく場所もあると思うが、この後に何か予定を入れているのかも知れない。


 私たちは上永谷氏の希望通り、ビショップベルク教会に向かう市バスに乗り込んだ。

 20分弱で最寄りの停留所"主教の丘"に到着する。


 停留所からでも、丘の上に建つ教会の黄色い壁が見えてくる。

 周囲の建物も同じ煉瓦造りで統一され、調和がとれた風景が見て取れる。


 ビショップベルク教会は私の記憶にも登場しない、比較的新しい教会だ。

 正面(ファサード)はパイプオルガンの上部にも似た階段状破風で、教会を特徴づけている。


 本堂まで続く広々とした本道には青い毒消し草の植え込みが並んでいる。

 幅35m、高さ49mの巨大な煉瓦造りの教会堂が迫ってくる。


「さっき、スロットシュル島で行政機関に興味がおありみたいでしたけど」


 教会堂の手前でエメットが不意に口を開いた。


「お二人って、もしかして公務員の方ですか?」


 上永谷夫妻が同時に目を見開いた。

 何かまずいことを言ってしまったのだろうか。


「え、えぇ、そうです。そうなんですよ、やっぱり分かりますか」


 上永谷氏が苦笑しながら答える。


「実は二人共、防衛装備庁(ATLA)の調達部で働いていまして……。武器とかそういうのを見て、ちょっと仕事のことを思い出していたんですよ」


「すごいのじゃ! 自衛隊なのじゃ!」


「でも、私たちは制服組でも隊員でもなんでもなくて、普通の事務ですよ」


 奥さんが謙遜するように言う。


「防衛省ってだけですごいと思うのじゃ。お国のために働いているのは偉いのじゃ」


「人は皆、誰かのために働いているものです」


 会話しながら教会堂に入る。

 三重の側廊を持つ本堂は76mもの長さで、奥行きと広がりのある空間が参拝者を包み込む。


 入り口の上部に設置されたパイプオルガンには4052本ものパイプがあり、スカーディナ王国一のオルガンである。

 二人は小さなデジカメで教会堂の写真を撮り始めた。


 しかし、夫妻はお互いを写すわけではなく、ただ内装ばかり撮っている。

 奇妙だった。


 教会そのものに興味があって、ただ人物を除いて写真を撮りたいだけかも知れない。

 私たちは彼らが満足するまで、その後ろに続くことにした。

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