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吸血鬼さんのおもてなし ~ 旅と歴史とダンジョンと  作者: ミュスター観光騎士団
主教の丘ビショップベルク教会のダンジョン
85/103

85. 大牙のホムンクルス

 ホムンクルスの咆哮が辺りの空気を震わせる。

 どうやら怒らせてしまったようだ。


 ホムンクルスは暴れ回りながら私たちに突っ込んでくる。

 なんとか回避するものの、手がつけられない。


 こういう時こそ魔法だ。

 私は呪鈴を手に取って魔法を唱えた。


「【DILTO(ディルト)】!」


 ホムンクルスの頭の周囲に黒い霧が吹き出し、その視界を覆った。

 ホムンクルスは狙いを定めることができず、頻りに首を振り始めた。


「今です!」


 私の合図とともに、リーズ様の槍がホムンクルスの急所を突き刺す。

 ホムンクルスは奇怪な呻き声を上げて倒れた。


「そこまで!」


 研修を監督する鬼人(オーガ)の一声で、戦闘は終了した。

 待機していた僧侶が怪我を負ったホムンクルスを回復させ、次の戦闘に備えさせる。


「うむ。見事なチームワークじゃった。ざっとこんなものじゃな!」


 こんちゃんが薄い胸を張り、楽器を背中に戻す。

 たとえ手強い相手でも、十分な装備と適切な戦い方ができれば問題はなさそうだった。


 鍵開けの研修が終わったところで、エメットとも合流する。

 "おおっと"とはならず、無事だったようだ。


 これまでも案内でダンジョンに潜ってきたおかげで、私たちの実力は深層でも通用する段階に達している。

 この調子で行けば、実際のダンジョン踏破も時間の問題だろう。


「それじゃ、今日はUzの配信があるから先に帰るのじゃ」


「お疲れ様ー!」


 研修を終え、数日後にはダンジョン深層に潜る許可が下りた。

 意外なほど簡単だったと言わざるを得ない。


 しかし、実際のダンジョンは罠が張り巡らされており、一筋縄では行かない。

 鍵開け師の研修がどんなものだったのかは知らないので、エメットが深層でも任務を果たせるかは未知数だった。


「エメットさん。本当に研修を修了したんですよね」


「疑ってます? 大丈夫ですよ。どんな罠でも完璧に秒速5cmで外せますから」


 エメットは館の客間でスマホを片手に答えた。

 さきほどからゲームに夢中で真剣に答えているとは思えない。


「例えば?」


「毒ガスの罠をシュールストレミングと同じくらいまで軽減できます」


「まるっきり軽減できてないじゃないですか。密室だったら場合によっては死にますから、それ」


「でも、どれくらい臭いか興味ありませんか?」


「ありません。他にはどうなんですか」


「アラーム音を音姫に変えます」


「……それでも魔物は出てくるんですよね」


「場合によってはポイズンジャイアントが出ますね」


「最悪じゃないですか」


 私の溜息にも、エメットは笑みを浮かべたままだ。

 ゲームが一区切りついたようで、スマホを置いて顔を上げる。


「何が出てくるかまでは、あたしの責任じゃないですからね。変な宝箱なんて、最初から無視するのが安全のためですよ」


「正論ですけど、鍵開け師がそれ言います?」


「遺跡荒らしですって。荒らすのが仕事であって、漁るのは盗賊がやるものですよ」


 何が違うのか分からない。

 本当に罠をエメットに任せていいのか心配だが、その時はその時だろう。


 とりあえず罠がテレポーターでないことだけを祈るしかない。

 石の中で死ぬのだけは御免だった。

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