81. 獣人のストリーマー Uz
あとはUzがこんちゃんの決意を受け入れるかどうか。
私たちは客室へと向かった。
Uzは椅子に腰掛け、スマホをいじっていた。
イヤホンを猫耳に付け、つまらないそうにスワイプを繰り返している。
私たちはUzの下に近寄り、彼女の肩を叩いた。
「……」
Uzは無言でイヤホンを取った。
「Uzさん。こんちゃんさんのお話を聞いてください」
「わかってる。わかってるよ……」
「Uz……その、わらわは……」
「……」
見つめ合ったままの沈黙。
しかし、それはお互いの気持ちを通わせるための、穏やかな沈黙だった。
「Uzと帰れれば良いとおもっておった。でも、Uzが望むのなら、トゥーリで……エルヴェツィアで暮らしたいのじゃ」
「こんちゃんさんは……いつも私のことを考えてる。マネージャーだから。でも、私にそんな価値はないよ」
「違うのじゃ! Uzはわらわにとって、その……あの……」
「わかってるよ……」
彼女は本気で移住を考えているのか。
本当は、こんちゃんの反応を見ているのかも知れない。
Uzも分かっているのだろう。
だが、Uzはあくまでも控えめに、そしてこんちゃんの言葉を待つ。
こんちゃんが本当の言葉に至るまで、遊覧船はゆっくりと波に揺られ続けた。
そろそろ停留所に着く。
「わらわが一緒にいたいのは、マネージャーだからじゃないのじゃ。わらわは……Uzが好きだから、一緒に暮らしたいのじゃ」
「……ありがとう。こんちゃんさん。それが良いよ。一番良い」
短い言葉だった。
だが、十分だった。
クルーズを終えると、Uzとこんちゃんはホテルへ戻っていった。
その足取りは軽く、重荷を下ろしたように見えた。
私たちも市街の中心から離れた安ホテルを見繕った。
観光地の大通りにあるホテルは高すぎる。
「良かったな。ただ観光ガイドをするだけじゃなくて」
「そうですね! でも、乙女心はややこしくて大変ですね!」
「エメットさんも一応、乙女じゃないですか」
「一応って。私は異性嗜好ですから。そう簡単に女の子にはなびきませんよ。でも、分かってますから」
エメットは私とリーズ様の関係に進展があることを期待しているようだった。
そして、悪戯っぽい視線を私に向けた後、スーパーマーケットへと買い出しに行ってしまった。
Uzとこんちゃんの遣り取りを見て、私はリーズ様との関係について考えた。
ただ尽くすだけでは伝わらないことがある。
私は血の主の契約によって、リーズ様と結ばれることを望んだ。
しかし、それはある意味でその場しのぎの、欺瞞に等しい行為だった。
それで本当に良かったのか。
いや、このままで良いのか。
リーズ様は私が尽くすことよりも望んでいることがある。
それに応えるには、ただ血の主としてリーズ様に忠誠を示すよりも、大事なことがある。
こんちゃんはたとえ祖国を離れることになろうとも、その決心を固めることができた。
私には、それができるだろうか。




