78. ビア・レストラン ケラー兵器庫
"ランチタイムなのじゃ。"
こんちゃんのカンペに従って、レストランへと向かう。
「"Uzが飯食ってるところ見たことない。" そんなわざわざ配信するもんじゃないから。
"何食うの?" 辛くて不味い蒙古タンメン以外の何かです。
"カメカメカメレオン"さん、ハイパーチャット3000円ありがとうございます。"飯代。" いただきます。
"パンツもぐもぐ"さん、ハイパーチャット2000円ありがとうございます。"こんちゃんの飯代。" ありがとうございます。こんちゃんさんと一緒に美味しいもの食べます」
今更だが、"こんちゃん"ではなく、"こんちゃんさん"というのは何故なのだろうか。
さんをつけろよデコ助野郎とでも言われているのだろうか。
「"蒙古タンメン食え。" 食いません。餓死しそうになっても食べない。
"ついにリバース配信か。" 吐いたら、その時は私がBANされます。
"3丁目のクトゥルフ"さん。ハイパーチャット5000円ありがとうございます。"観光ガイドさんにも奢れよ" もちろん奢ります」
蒙古タンメンの何が悪かったのかは知らないが、彼女の配信では定番ネタなのかも知れない。
とりあえず昼食を奢ってくれるようで助かる。
聖ペーテル教会から再び市電が走る目抜き通りへと向かう。
ブランド・ショップやカフェと並んで建つビア・レストラン"ケラー兵器庫"。
かつて人間の自警団が兵器庫として使っていた建物を改装し、レストランとして営業している。
530年前に建てられたもので、聖女が戦った時代よりも新しいが、それでも相当に古い。
「カメラOK? OK! OKなのじゃ!」
極めて適当な交渉で、こんちゃんも配信したまま店内に入る。
単に珍しい巫女服だからOKだったのではないかと思う。
「あれって本物?」
店内には遥か昔に用いられていた刀剣や魔道具、それに甲冑が飾られている。
単なる装飾ではなく、実際に使われていたものだ。
「日本語メニューがあるのじゃ。フレンドリーな上に日本人にも優しいお店なのじゃ」
実際のところ、世界には東洋人というだけで露骨に差別的な扱いを受ける国もある。
さらに魔族ともなれば言うに及ばない。
例えば、夜の経済を支えるような店では、嬢たちの大半が人間の白人狙いで、魔族は相手にされない。
魔族は本当の意味で人間の精気を喰らうので、それは話が違うと思われているのだろう。
それに比べれば、エルヴェツィア共和国はまともな部類だ。
人間の精気さえ吸えれば夢魔たちは相手を選ばない。
そして、日本の男性に関しては、見栄を張って大金を出すので上玉だと思われている。
何でもかんでも物珍しさから指差して笑っている日本の女性に比べれば、彼らは本当の意味で紳士的だ。
Uzはどちらかと言えば男性的なタイプで、控えめな態度で店員に対して何かある毎に礼を述べている。
こんちゃんといえばUzのためにナプキンを用意したり、水を注いだり、単なるマネージャー以上の関係に見えた。
「"何頼むの?" とりあえずオススメを一通り」
豚の脚肉を下茹でしてからローストしたシュバイネハクセには、ポテトサラダを添えてある。
かなりボリュームのあるメニューだ。
「この"聖女の錫杖"って何ですか」
「頼んでみますか」
出てきたのは錫杖に巻きつけられた双頭の牛肉の焼き肉だった。
錫杖丸ごとテーブルに置かれる。
「頼みすぎたかも……」
アスパラガスと石化治し草のサラダ、輪切りにしたバロメッツの腸詰め、レヴィアタンのフライ。
欲張りセットとビールがテーブルを埋め尽くす。
Uzは普段からスナック菓子で食事を済ませているだけあって食が細いらしく、肉はわずかしか食べなかった。
奢りだからとエメットが張り切って食べたので、大半の皿は綺麗になった。




