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吸血鬼さんのおもてなし ~ 旅と歴史とダンジョンと  作者: ミュスター観光騎士団
国際金融都市トゥーリ
75/103

75. 配信スタート

 この2名は一体どういう関係なのか。

 かなり気になるが、そこまで踏み込む勇気はない。


「お二方はどういう関係で? 偽名をお使いのようですが、密入国者か何かなんですか?」


 こういう時にエメットの無遠慮な態度が羨ましくなる。

 だが偽名でも密入国でもなく、恐らく芸名だ。


「えっと、ハンドルネームです。私たちは広告業で、彼女は……マネージャー」


 Uzと呼ばれた猫の獣人(リカント)が答えた。


「Uzは日本で活動してるゲーム・ストリーマーなのじゃ。視聴者1万人の大人気チャンネルなのじゃ」


「こんちゃんさん、それは言わなくていいじゃん」


「これから皆に知られるのじゃ。それは、今日か明日か。遅いか早いかしか違いはないのじゃ」


 幼女体型の狐巫女こんちゃんの予言者めいた言葉に、Uzは満更でもない表情を浮かべた。

 調子の良いものだ。


「そして、今日はエルヴェツィア共和国で活動するための、記念すべき第一歩なのじゃ。下界を知るには良い日和なのじゃ」


 ここが下界かは分からないが、観光地であることは間違いない。

 観光ガイドとしてならば、私たちにも手助けできることがあるだろう。


「それじゃ、カメラを回すのじゃ」


「は?」


 何言ってるんだ、この、のじゃロリ狐巫女は。

 やめてくれ。


「もう配信されているのじゃ。さあ、スマイル、スマイルなのじゃ」


 そう言いながら、こんちゃんはカメラとマイクを向けてくる。

 逃げ道はない。


「冗談じゃありませんよ……」


「イェーイ! イェーイ! イェーイ! イェーーーイ! イェ……ごほごほっ!」


 乗っけから完全にアッパーなハイテンションのエメットの姿が、今まさに全世界に向けて発信されているのだろう。

 残念だが、これは放送事故なのではないか。


「……えっと、今日はゲームじゃなくて、外配信です。日本は朝だと思いますが……朝からよろしくお願いします」


 Uzがダウナーなテンションで喋り始める。

 引きこもってゲーム配信をしているストリーマー特有の、外気に触れた途端に弱る性格らしい。


 こんちゃんは器用にカメラとマイクを構えながら、Uzに自分のスマホを渡す。

 スマホの画面には視聴者からのコメントが滝のように流れている。


「"傍にいるのは誰? 危なくない?" 観光ガイドの方です。ストリート・パフォーマーではないです。頭のおかしい方でもないです。今日は外だから、ちょっとは弁えてくれリスナーたち。

 "猿の脳みそ"さん、ハイパーチャット1000円ありがとうございます。"今朝何食べた?" 砂糖がかかったワッフルと砂糖がかかったパンケーキですね。ゲロ甘」


 ろくでもないコメントにろくでもないハンドルネームが並ぶ。

 画面の向こうにいる奴の顔が見たい。


「"吸血鬼初めて見た。" 吸血鬼? あれ? 本当に? すいません、初めて見たもので……」


 Uzがいかにも興味深そうに私のほうを見ると、こんちゃんがカメラを私に向ける。

 やめてくれ。


「"吸血鬼って昼間に起きてていいの?" 知らないです。多分、大丈夫なんだと思います。

 "象のフン"さん、ハイパーチャット100円ありがとうございます。"血吸ってもらえ。" 多分、無理だと思います」


 このまま、この世の終わりみたいな配信が続くのか。

 私は絶望した。

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