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吸血鬼さんのおもてなし ~ 旅と歴史とダンジョンと  作者: ミュスター観光騎士団
最大の古城グラープ城の隠しダンジョン
71/103

71. 脱出

 洞窟の突き当りにあった鉄扉を開くと、薄暗い廊下が伸びていた。

 頭上には蛍光灯、足元には水道管が引かれている。


 グラープ城の庭園の地下にある噴水や散水用の水道管だろう。

 どうやら無事に戻ってこられたらしい。


「そっちの梯子から外に出られそうだな」


 錆びついた梯子を登り切ると、そこはレセプション会場のど真ん中だった。

 とんでもない所に出てしまった。


 ダンジョン内で過ごした時間は長かったが、やはり時間の流れが歪んでいたようだ。

 まだ昼時で、レセプションは続いている。


「何かあったのかね?」


「地下から誰か出てきたぞ」


 皆が目を丸くして私たちを見ている。

 こういう形で注目を集めてしまうとは思ってもみなかった。


「ははは……。どうも、すいません。通りますね……」


 愛想笑いを浮かべながら、私たちは地下から這い出た。

 砂や埃を払い落として、何事もなかったように装う。


「それにしてもお腹減りましたね。まだレセプションも続いてますし、残ってるものがあればいただきましょうよ!」


「そうですね。ちょっと一息つきたいところですし」


 私たちは参加者に紛れ込んで、パーティ料理をつついた。

 しかし、緊張の糸が切れたせいか、味がしない。


 エメットはすっかり調子を取り戻して、イセザキたちとテーブルを囲んでいる。

 アルコールはビールやワイン、選び放題のようだ。


 食べ物の皿にはクネドリーキと多種多様なソースが並んでいる。

 クネドリーキは粗挽きの小麦を練って団子状にして茹でたものだ。


 食べる時はスライスして、肉汁やソースにつけて食べる。

 惚れ薬に使われる薬草で香り付けしたキャベツの漬物ともよく合うが、今は口に入れても違和感しかない。


 ゆっくりしているうちに、私の心の中で不安が頭をもたげ始めた。

 あのダンジョンのこと、管理者に伝えておくべきなのでは。


 城内に戻ってダンジョンの部屋の前で学芸員を見つけ、私は事の顛末を話した。

 エルフの学芸員は大して驚いた素振りも見せず、私の話を静かに聞いていた。


「左様でしたか。お怪我はありませんでしたか」


「私たちは大丈夫です。でも、ダンジョンは危険でした。中に入れないようにしておくほうがいいかと」


「ご報告いただき、ありがとうございます。誠に申し訳ございませんが、混乱を避けるため今回のことはどうか内密にお願いいたします」


「ええ。承知しました」


 学芸員にとっては城にダンジョンがあることは当然のようだった。

 思っていた反応と違って、逆に私のほうが困惑した。


 時に城自体がダンジョンであることもある。

 既に私たちはグラープ城という巨大ダンジョンに取り込まれていたのかも知れない。


 それにしても、ロシルが最後に言っていたことが気になる。

 エルフの碩学ヨルゲンは一体何を知っているのだろうか。


 今度、観光案内で海外に出る機会があれば、寄ってみるべきだろう。

 色々と気がかりな事は残っているが、私たちはレセプションを終えてグラープ城を後にした。

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