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吸血鬼さんのおもてなし ~ 旅と歴史とダンジョンと  作者: ミュスター観光騎士団
最大の古城グラープ城の隠しダンジョン
70/103

70. エンプーサの総主教 ロシル

「あっはっはっはっは! 見ものだったわ。よくも狂った悪魔相手に、あんな啖呵が切れたものね」


 ロシルは笑いながら両手を開き、洞窟の天井を仰いだ。

 その態度は先ほどまでの狼狽えた様子とはまるで違う。


「君は誰……いや、何なんだ?」


 リーズ様の問いに、ロシルは答えなかった。

 冷めた笑みを湛えたまま、私たちを睥睨している。


「リーズ様。エンプーサは自在に姿を変える。ロシルは自身の影をも別の姿に変えて、ジョーカーに成りすましていたんですよ」


「ご明察の通り。たまたま今回の私はロシルであり、ジョーカーでもあった。それだけのこと」


 私の指摘にもロシルは全く動じていない。

 彼女はここが自分の領域であることに自信を持っている。


「全部、嘘だったのか」


「相手を騙すには虚実を織り交ぜるのがセオリーよ。嘘ばかりでは騙していることが明らかでしょう? 50/50フィフティ・フィフティがベストなの。でも、貴方のように純真な魔族を騙すのは心が痛むわ」


「君は私を弄んでいたわけだな。つまり、それも嘘か」


 リーズ様の拳が小さく震えている。


「さて、どちらかしら? たとえ見知った相手でも、言葉には気をつけないと」


「彼女の態度は演技には見えませんでした」


 シオバラの言葉に、ロシルはわずかに眉を上げた。


「私は外には帰らない。勇者が再びグラープに攻め入るか、魔王が復活するまではね。その時が来るまで、私はここにいなければならないの」


「それが不本意であっても、君はそれを選ぶんだな」


 リーズ様はフルーレを鞘に収め、ロシルを見つめた。


「誤解を恐れずに言うなら、私たちが勇者から逃げたことは事実で、籠もっているうちに仲間を失って、封印されたのは一種の懲罰で、そして許しを請える日を待ち続けている。そんなところかしら?」


「2つは本当で、2つは嘘か」


「さっきの言葉を簡単に信じている時点で、貴方は私の嘘を見破れない」


 ロシルはため息交じりに言った。


「ゲームはおしまい。人間を連れて出ていきなさいな」


「取材の最中に嘘つきは山程見てきたが、あんたが一番だよ。助けてもらっておいてなんだが、とんだ食わせ者だ」


 イセザキは憤慨して洞窟の奥へと歩みを進めた。

 エメットも彼に続く。


「吸血鬼さん、貴方には忠告しておくことがあるわ」


「何ですか」


「フェノスカーディナ公爵領の公都コブマンハウンに行って。そして、エルフの碩学ヨルゲンを探しなさい」


「どういうことですか?」


「貴方が知りたいことを知ることになる」


 ロシルは穏やかに言った。


「魔王の器に選ばれていたことを、貴方自身は知らなかった。何も知らされないまま。それではあまりにも可哀相だから」


「その言葉は本当ですか」


「冥土の土産かも知れないわね?」


 ロシルは意味深な笑みを浮かべながら、出口へ向かう私たちを見送っていた。

 その顔には寂しさが垣間見えた。

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