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吸血鬼さんのおもてなし ~ 旅と歴史とダンジョンと  作者: ミュスター観光騎士団
始まり
7/103

7. 吸血鬼、学ぶ

 私がリーズ様から最初に知らされたことは、ここが魔界(元の世界)とは異なる世界だということだった。


 この世界では、大きな島々が地球という丸い星の海上に浮いているのだという。

 そんな異世界に、私たち魔族が暮らしていた大陸、"エルヴェツィア大陸"は丸ごと転移してきた。


 魔界の大陸が地球まで転移した原因は食料不足だった。


 魔界では魔族と人間が熾烈な争いを繰り広げてきた。

 人間が魔族の魔法や技術を受け入れる一方、魔族は人間の奴隷を従え、彼らから精気を吸い取っていた。


 要するに魔族にとって人間は従臣であり、取引相手であり、家畜だった。

 しかし、魔族に抵抗する人間たちが現れ始め、ついには魔族と人間の戦争が勃発した。


 それでも魔王に率いられた魔族は人間を打ち負かし、彼らを再び服従させることに成功する。

 魔王によって魔族が全土を支配するエルヴェツィア王国が建国され、ついに平和が訪れたのだ。


 だが、食糧となる人間を狩り尽くした魔族は、やがて深刻な食糧難に陥った。

 人間は徐々に数を減らしていき、多くの魔族が困窮を極めた。


 そこで、魔王は人間が残っている異世界へ、大陸ごと引っ越すことを決める。

 それが魔族と人間の関係を根底から変えてしまうとは、誰も予想できなかった。


 到着した異世界――地球には、食糧となる人間が多数存在していた。

 しかし同時に、彼らは強力な兵器を有する地球の支配者だったのである。


 ソビエト連邦――かつてのロシア連邦が放った先遣隊に殺されなかったのはスライムたちだけだった。

 人間の武器から発射された弾丸が貫通しなかったのは、大量の水分で構成された彼らの身体だけだったのだ。


 最早、下手に逆らえば殺されるのは魔族のほうになっていた。

 魔王は急ぎ、人間の国家との外交関係を樹立した。


 地球における自然の摂理に従って、魔族の常識は調整されていった。

 地球での慣例に従って、まずは暦が変えられた。


 新しい暦に換算すると、私が眠りについたのは約100年前。

 そして、エルヴェツィア大陸が地球に転移したのは60年前のことだった。


 人間に受け入れられるため、エルヴェツィア王国は魔王制を廃してエルヴェツィア共和国になった。

 だが、そこで愚かにも、枢密院の過激派が混乱に乗じて魔王を処刑してしまう。


 良かれと思ってやったことだったが、処刑に抗議する人間がいたので枢密院は紛糾した。

 枢密院の対応は国際会議の場で槍玉に挙げられ、処刑は野蛮だと罵られる結果になった。


 さらに魔王の処刑を機に、エルヴェツィア共和国は分裂し、各魔族が勝手に独立国を宣言し始める。

 冷戦の真っ只中、アメリカ合衆国とソビエト連邦は自分たちの陣営に魔族を引き入れるため、味方になりそうな種族の独立を後押ししたのだ。


 そして、密かに人間から殺戮兵器を供与された魔族は、お互いに無為な殺し合いを始めた。

 魔族の紛争が代理戦争であることは明白だったが、紛争を止められたはずの魔王はもういない。


 中華人民共和国の支援を受けたドワーフ社会主義共和国の機甲師団は、エルヴェツィア共和国の吸血鬼部隊を殲滅した。

 自由を叫んだ私の同胞たちは一人残らず、59式戦車の(わだち)に消えた。


 地球に来てから60年。

 冷戦の終結で紛争は小康状態に入り、魔族はようやく人間とともに平和を享受できるようになった。


 かくして魔族は人間の精気を得るという目的を果たしたものの、地球の一員として人間の友人になることを了承させられたのだった。

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