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吸血鬼さんのおもてなし ~ 旅と歴史とダンジョンと  作者: ミュスター観光騎士団
最大の古城グラープ城の隠しダンジョン
69/103

69. 同化

 リーズ様はロシルを庇うように立ち、ジョーカーを睨んだ。


「ロシルはもう十分に自分の行いを悔いてきた。これ以上、彼女を過去に縛り付けるのはやめるんだ」


「なんだ? お前は? お前は、えっと……ハーフエルフだろ? だろ~? 半端者がよくもそんな能書きを垂れ流せたものだな? おい」


 ジョーカーはリーズ様とロシルを見下すかのように、飛び跳ねて宙に浮かんだ。

 リーズ様は道化にフルーレの剣先を向けた。


「そんなことは関係ない。ロシルを自由にするんだ」


「私は……違う。そんなつもりで、貴方たちを助けたわけじゃないの……」


 ロシルはリーズ様の腕に縋り付き、喉を枯らして言った。


「私が貴方たちに協力したのは……違う、違うのよ……。ただ寂しさを紛らわすため……ただそれだけだったのよ……」


 大きく首を横に振るロシル。

 だが、それが本心でないことは明らかだった。


「ロシル。君は自分の身を危険に晒して魔物と戦い、私たちに協力してくれた。ただの気紛れじゃない。君自身の意志だろう」


「それは……」


 ロシルは狼狽えている。

 しかし、彼女も本当はこのダンジョンに居続けていたいとは思っていない。


「なるほど、なるほど。はみ出し者同士、仲良しごっこかい? 偉いね~~~! でも、それで? 裏切り者は大人しくしていたほうが身のためだぜ? 俺が本気を出したら、お前ら全員、灰も残さずに消え去ることになるんだからなァ!」


 ジョーカーの言葉にイセザキが顔をしかめた。


「これは俺の個人的意見だが、あまり奴を煽るようなことをしないほうがいいんじゃないか……? ここを出るんだろ? 帰れなくなったらどうする?」


「単なる脅しです。こちらには十分な戦力があります。伊勢佐木さん、奴の挑発に乗らないでください」


 イセザキはシオバラに宥められ、小さくなってリーズ様の後ろに下がった。


「人間風情まで味方か? グラープ総主教様が聞いて呆れる。お前は誰の味方なんだ? 誰を救おうとしている? 地獄の席はまだまだ空いているぞ! 俺がここで直接、手を下してやっても――」


「お前は黙っていろ!」


 リーズ様はジョーカーから一瞬も視線を外さずに怒鳴った。

 今までに見たことのない、リーズ様の怒りだった。


「お~~~? 怖い怖い。嫌だねぇ、すぐにカッカして」


「私のことはどうでもいい。ロシルは彼女自身の意志で、道を選ぶべきだ」


 リーズ様の言葉に、ロシルは胸を打たれたように顔を上げた。


「は! 興が削がれた……。いいだろう。だが、一つだけ忠告しておく」


 突如、道化の身体が揺らめき、そして輪郭が崩れ始めた。

 ジョーカーだった肉体は粘液のように溶け、そしてロシルの影に同化した。


「なんだ、これは。何が起きた?」


「まさか……!」


 ロシルは大きく肩を震わせて笑い始めた。

 その声はジョーカーと瓜二つだった。

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