69. 同化
リーズ様はロシルを庇うように立ち、ジョーカーを睨んだ。
「ロシルはもう十分に自分の行いを悔いてきた。これ以上、彼女を過去に縛り付けるのはやめるんだ」
「なんだ? お前は? お前は、えっと……ハーフエルフだろ? だろ~? 半端者がよくもそんな能書きを垂れ流せたものだな? おい」
ジョーカーはリーズ様とロシルを見下すかのように、飛び跳ねて宙に浮かんだ。
リーズ様は道化にフルーレの剣先を向けた。
「そんなことは関係ない。ロシルを自由にするんだ」
「私は……違う。そんなつもりで、貴方たちを助けたわけじゃないの……」
ロシルはリーズ様の腕に縋り付き、喉を枯らして言った。
「私が貴方たちに協力したのは……違う、違うのよ……。ただ寂しさを紛らわすため……ただそれだけだったのよ……」
大きく首を横に振るロシル。
だが、それが本心でないことは明らかだった。
「ロシル。君は自分の身を危険に晒して魔物と戦い、私たちに協力してくれた。ただの気紛れじゃない。君自身の意志だろう」
「それは……」
ロシルは狼狽えている。
しかし、彼女も本当はこのダンジョンに居続けていたいとは思っていない。
「なるほど、なるほど。はみ出し者同士、仲良しごっこかい? 偉いね~~~! でも、それで? 裏切り者は大人しくしていたほうが身のためだぜ? 俺が本気を出したら、お前ら全員、灰も残さずに消え去ることになるんだからなァ!」
ジョーカーの言葉にイセザキが顔をしかめた。
「これは俺の個人的意見だが、あまり奴を煽るようなことをしないほうがいいんじゃないか……? ここを出るんだろ? 帰れなくなったらどうする?」
「単なる脅しです。こちらには十分な戦力があります。伊勢佐木さん、奴の挑発に乗らないでください」
イセザキはシオバラに宥められ、小さくなってリーズ様の後ろに下がった。
「人間風情まで味方か? グラープ総主教様が聞いて呆れる。お前は誰の味方なんだ? 誰を救おうとしている? 地獄の席はまだまだ空いているぞ! 俺がここで直接、手を下してやっても――」
「お前は黙っていろ!」
リーズ様はジョーカーから一瞬も視線を外さずに怒鳴った。
今までに見たことのない、リーズ様の怒りだった。
「お~~~? 怖い怖い。嫌だねぇ、すぐにカッカして」
「私のことはどうでもいい。ロシルは彼女自身の意志で、道を選ぶべきだ」
リーズ様の言葉に、ロシルは胸を打たれたように顔を上げた。
「は! 興が削がれた……。いいだろう。だが、一つだけ忠告しておく」
突如、道化の身体が揺らめき、そして輪郭が崩れ始めた。
ジョーカーだった肉体は粘液のように溶け、そしてロシルの影に同化した。
「なんだ、これは。何が起きた?」
「まさか……!」
ロシルは大きく肩を震わせて笑い始めた。
その声はジョーカーと瓜二つだった。




