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吸血鬼さんのおもてなし ~ 旅と歴史とダンジョンと  作者: ミュスター観光騎士団
最大の古城グラープ城の隠しダンジョン
68/103

68. 出口

 私たちの目前に迫ったジョーカーは両手に呪鈴を構えた。

 そして、そのまま高速で火炎魔法を詠唱する。


「【MAHALITO(マハリト)】!」


 視界を覆い尽くす火炎の壁が立ちはだかり、そのまま私たちへと向かってくる。


「【MAZALIKマザリク】!」


 イセザキの杖から放たれた水流が波のようにうねり、火炎の壁を直撃する。

 轟音とともに蒸気が吹き上がり、2つの魔法は相殺された。


「おやおや、おやおや? 反撃するってことは戦意が無いわけじゃないよな~? 愚かな人間よ~?」


 ジョーカーは地面に降り立つと、呪鈴を振りながら挑発するかのようにダンスを踊った。

 次に何を仕掛けてくるのか、まるで予想できない。


「こんな奴、話にならない! どうにかしてくれ!」


 イセザキが魔力酔いで頭を抱えながら叫んだ。

 それは分かってはいるが、強力な魔法に対抗する術はない。


 こうなれば上手く交渉するしかない。


「待ってください! 貴方は魔王の器である私に逆らうつもりですか?」


「あ?」


「もし魔王が復活する時に、魔王の器が損なわれていれば、魔王は完全には復活できなくなる。そうなれば貴方のせいですよ。違いますか」


「ほお~~~。そこに気付くとは天才か?」


 ジョーカーは薄気味悪い笑みを浮かべたまま呪鈴を掲げ、そして袖の下にしまい込んだ。

 魔王の器である私を傷付けることは避けたいようだ。


「私たちはここから出たいだけなんです。出口を見つけたら、出ていきます」


「それは無理だな! 一体どこに出口があるのか、誰にも分かりゃしねえ」


「どういう意味ですか」


「そのまんまだよ~~~ん。俺だって好きでここにいるわけじゃない! 何しろ出口がどこだか見当もつかないんだからな! 要するにだ。お前の身体で魔王が大復活して、外から魔法で解放されるまで、ここでゆっくりしていけや? な?」


「そんな……」


「嘘ですよね」


 シオバラが一歩前に出て言った。


「はい~~~?」


 道化はわざとらしく耳に手を当てて首を傾けた。


「貴方は人間を返り討ちにすると言っていました。それなら、どこかで待ち伏せするのが普通です。しかし、このダンジョンは面積が広く、魔物もいるため待ち伏せが有効な場所は殆どありません。ですが、唯一の例外があります」


 シオバラはジョーカーを指差して言い放った。


「出口です。ここが出口なんです。貴方がわざわざこんな場所にいることこそ、その証拠でしょう」


「……。ほほぉ! 素晴らしい推理だな! 大、正、解! 褒めてやるよ! 実にグッド!」


 図星を突かれたジョーカーは拍手しながら苦笑いを浮かべた。

 そして、暗黒で満たされた姿見を顎で示した。


「この鏡は外に通じている。通り抜ければグラープ城の下水道に出られるってわけだ! 外で誰が待っているかはお楽しみだけどな?」


「それも嘘ですね」


「うっ!」


「鏡が放置されていたなら、誰かが見つけているはずでしょう。それが突然現れたのであれば、単なる罠です」


「冴えてるじゃねえか。素人じゃねえな! ……出口はこの洞窟の上だ! 正直に喋ったからいいだろ?」


 ジョーカーは口元を歪めながら、なんとか笑みを保っていた。

 シオバラは海外で取材してきているだけあって、偽の情報には敏感なのかも知れない。


「それじゃ、私たちは出ていきます。通してください」


「待て待て待て、慌てるな慌てるな!」


 ジョーカーは指を鳴らして手元に一輪の薔薇を出現させると、その薔薇をロシルに向かって放った。

 ロシルは薔薇がぶつかる直前で、それを握り潰した。


「裏切り者は駄目駄目駄目駄目、駄目だァ! グラープの市民を、グラープの街を、グラープの誇りを捨てて、我が身可愛さにダンジョンに逃れ、恐れ多くも魔王に協力せず、こそこそ隠れていたクズに情けはかけられねえ!」


 ジョーカーの言葉に、ロシルはただ項垂れるだけだった。


「出ようとは思っていなかったわ……最初から……。彼らを出口に送り届けて……また墓を見守るつもりだったから……」


「そうだ。そうしろ。お前にはそれしか道はねえ」


「違う!」


 その時、リーズ様が叫んだ。

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