67. 封印解除
「この悪魔が言っていることは支離滅裂で意味不明だ。無視して出口を探したほうが良くないか?」
イセザキはジョーカーの狂気の視線から隠れるため、リーズ様の影に引っ込んだ。
「ちょっと待ってください。少し聞きたいことがあります」
私は座り込んでいるジョーカーを見下ろした。
道化は貼り付けたような笑みを浮かべたまま顔を上げた。
「魔王がいないのに、どうして俺は起こされたんだ~? どうして、このダンジョンに繋がる部屋の封印が解けた~?」
先に質問してきたのはジョーカーだった。
「いや、魔王の器が起きたから、封印は解けたんだな」
「どういうことですか?」
「勇者が攻めて来てグラープが陥落した時、都市を防衛していた指導者たちは皆殺しにされちまった。そんな悲劇は二度と御免だよな? だから、魔王がグラープを奪還した時、俺はこのダンジョンに守護者として封印された。ダンジョンまで攻め込んだ人間どもを返り討ちにして、逆に皆殺しにするためにな!」
ジョーカーは高笑いしながら言った。
「でも、人間が再びグラープまで攻め込むことは無かった」
「その通り! しかし、ただ封印されてるだけじゃ勿体ねえ! 魔王が必要とした時、俺は解放され、勇者と戦うことになっていた! 魔王が新たな身体を得て、最終決戦に挑む時。それが必要な時だ!」
ジョーカーは私を指差した。
彼はきっと魔王の懐刀として、温存されていたのだろう。
「防衛と人間の気を引くため、グラープ城にある入り口は封印されていたはずなんだが、解錠の手順に不備があったようだな。いくら魔王でも、その魂を判別することは困難。だから、予め魔王の器となる魔族の一意な特徴を、封印を解く認証用の鍵にしていたわけだが……」
狂気の視線が真っ直ぐに私を射抜く。
私は彼の眼光から自分の目を逸らした。
「手違いだったわけですね。魔王の魂が魔王の器――私に乗り移り、入り口の封印が解かれるはずだった。でも、実際には私だけが起き上がり、そして部屋の封印は解かれた」
「そういうこと! ぬか喜びってわけだ~~~! 信じられねえよ! あっはっはっは!」
そこまで話すとジョーカーは床の上に大の字になった。
それでも笑い声は続いている。
「でも、折角だから人間だけでも殺しておくか」
ジョーカーは急に真顔に戻ると、仰向けの姿勢のまま空中に飛び上がった。
私はすぐに飛び退り、イセザキとシオバラの近くに着地した。
「やめてください。私たちに戦意はありません」
「そういうことじゃねえんだッ! お前も魔王の器なら理解できるだろ? 俺は人間ぶっ殺し部隊隊長! 人間を見たら? 殺すんだよォーーー!」
ジョーカーは下品な笑い声を上げながら、私たちに向かって急降下してきた。




