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吸血鬼さんのおもてなし ~ 旅と歴史とダンジョンと  作者: ミュスター観光騎士団
最大の古城グラープ城の隠しダンジョン
66/103

66. 狂気の瞳

 けたたましい音を立てて鏡は自ずから砕けた。

 錬金術師の魔法によって、呪われた道具は破壊されるのだ。


 この姿見は呪われた道具だ。

 鏡面があったはずの面には暗黒が広がっている。


「離れて!」


 次の瞬間、水面のように暗黒が盛り上がり、何者かが飛び出してきた。


「コォーングラッチェレイショーン!」


 捻じ曲がった角に蝙蝠のような黒い翼。

 そして奇妙な道化の格好をした悪魔が、宙を逆さまに飛びながら言った。


「魔王の器がやってきた! この呪われし王宮へ! そして、この俺の下へ! なんとなんと、なんと素晴らしい!」


「なんだこいつ!?」


 道化の悪魔は狭い洞窟の中を器用に飛び回る。

 その目は狂気に染まっていた。


 会話が成立するとは思えない。

 しかし、話してみないことには出口のことも分からないままだ。


「貴方は誰?」


「俺か? 俺は道化のジョーカー。ジョーカーだ。よろしくな!」


 一応、名乗る程度の知能はあるようだ。

 私は一安心した。


「それよりも! 魔王の器がやってきたってことはだ? つまり、勇者との最終決戦だな? 最終決戦だ! 血湧き肉躍るぅぅぅ!」


 一体、彼は何を言っているのだろう。

 魔王の器? 勇者との最終決戦?


「魔王の器って何ですか?」


「知らないの? 知らないのか? もぐりか? もぐりなのか?」


 ジョーカーは左右に頭を振り、風変わりな帽子についた鈴を鳴らした。


「魔王の器ってのは、魔王オルドリシュカ様の新しい身体のことだ! 可哀相なオルドリシュカ様は病気で自分じゃ動けない。でも新しい身体に転生できれば、もう大丈夫! つまり、魔王が大復活するってことだ! あっはっはっは!」


 魔王オルドリシュカ。

 勇者との戦いに打ち勝ち、エルヴェツィア王国を建国した、伝説の魔王。


 しかし、魔王は処刑されたはず。

 その魔王が転生しているなんて話はなかった。


「ここは本当に退屈なところだったぜ~? こんなところに閉じ込められて魔王の大復活を待つだなんて、死んでるのと同じさ!」


 道化は岩の上に着地すると、私に向かってスキップで近寄ってきた。


「しかし、ようやく魔王の側仕えである俺の出番がやってきたわけだな? 感動! そして、名誉ある魔王の器は――そこの吸血鬼! おぉ! 我が親愛なる魔王オルドリシュカ様!」


 道化は芝居がかった仕草で頭を垂れ、右腕を私の前へと伸ばした。

 私が魔王の器?


「……あ? おかしいな? オルドリシュカ様は俺のことを忘れちまったのか?」


 道化は顔を上げて、不気味な白面を近づけて私の身体を舐めるように眺め始めた。


「俺の目に狂いはねえ。坊主どもの封印魔法の残滓が辛うじて残ってる。……すると、どういうことだァーーー!? 魔王の器は起き上がったが、魔王が大復活してねえってことじゃねえか! チクショーーー!」


 ジョーカーは帽子を床に叩きつけ、ピンク色の髪の毛をかきむしった。


「ふざけやがって! 何が起きた? 坊主どもがしくじりやがったか? というか、そこの人間は何だーーー!? 俺を見てるんじゃねえーーー!」


「怖っ!」


 道化の発狂した言動に慄き、イセザキはリーズ様の後ろに隠れた。


「落ち着いてください。ちゃんと説明してくれませんか」


「落、ち、着、け、だァ!? 俺は十分に落ち着いてるぞ! それより、魔王の器だけがここに現れるなんてアクシデントは聞いてねえ」


 ジョーカーは不貞腐れたように割れた鏡の前であぐらをかいて座った。

 どうやらきちんと話を聞かねばならないようだった。

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