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吸血鬼さんのおもてなし ~ 旅と歴史とダンジョンと  作者: ミュスター観光騎士団
最大の古城グラープ城の隠しダンジョン
65/103

65. 姿見

 態勢は整った。

 しかし、安全に出口に入れるかどうかは依然としてわからない。


 こういうダンジョンには出口を護る魔物がいることが多い。

 もし戦闘になった場合、この即席スクワッドがどこまで通用するのか。


 魔法使いがいるとはいえ、戦うことは賢明ではない。

 前衛と後衛のバランスは良くなったかも知れないが、相変わらず防具がないので全滅の危険はある。


 私たちは海上を浮遊して歩いていった。

 波があっても、それに応じて身体が上下する。


 こうした状況で、船酔いと同じように波酔いする者もいる。

 昔の船乗りたちは波酔いする冒険者を軟弱者だと嘲笑っていた。


「魔力酔いと波酔いのコンボで死ぬほど辛い」


「しっかりしてください、伊勢佐木さん。もうすぐ目的地ですから」


「酔い止めが無かったら即死だった」


 肝心の魔法使いがこれでは先が思いやられる。

 やはり戦闘は避けるべきだろう。


 やがて海の中から飛び出した岩壁が目前に迫ってきた。

 波によって側面が削り取られ、上部が張り出しているように見えるためか圧迫感がある。


「どうにか上に登れないだろうか」


 私たちは巨岩の波打ち際を歩いていき、陸地とは反対側に回り込んだ。

 すると、そこにはまるで鯨が口を開けたような入り口があった。


「そのまま洞窟に食べられそうですね」


「エメットさん、入る前にそういうこと言わないでください」


「既にこのダンジョンに取って喰われているようなものだけどね」


「まずは灯りを……【EROAD(エロード)】」


 ロシルの魔本のページが発光し、光球が現れた。

 光は頼りなく揺れ動きながら洞窟の中を照らし出す。


 洞窟の中は浅瀬になっており、その先には岩肌が露出した陸があった。

 まるで人工物のようだった。


 私たちはそのまま洞窟の中へと入っていった。

 静まり返った洞窟に私たちの足音だけが響く。


「何かありますね」


「姿見……か?」


 場違いなことに、目の前の岩に姿見が置かれていた。

 細かな彫刻が掘られている縁に入れられた鏡は錆もなく、周囲の風景をくっきりと映し出している。


「呪いの鏡かも。見たら中に吸い込まれるとか」


「ダンジョンの外に排出されるんじゃないか」


「ロシルさん、何かご存知ですか」


 ロシルは首を横に振った。


「前にここまで到達した者もいたけど、鏡のことは言ってなかった……」


 それは本当だろうか。

 これだけ目立つものを見つければ話さないわけがないと思うが。


 それとも、この鏡は後から出現したものなのかも知れない。

 城の封印が解かれたように、鏡も何かの合図だとしたら。


「いずれにしても……魔法をかけてみないことには分からないわ……」


 ロシルが足を引きずりながら前に出た。

 そして魔本を構える。


「【PENDEACOT(ペンデアコット)】」


 耳慣れない錬金術師の魔法が響き、あたりに木霊する。

 その時、魔法を浴びた鏡が小さく揺れ、その鏡面にひびが入り始めた。

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