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吸血鬼さんのおもてなし ~ 旅と歴史とダンジョンと  作者: ミュスター観光騎士団
最大の古城グラープ城の隠しダンジョン
63/103

63. 蘇生

「血が足りないわね……」


 死体を蘇らせるには十分な血肉が必要不可欠だった。

 死体の傍には、毛が焼け、頭が陥没した魔狼(オーグ)の死骸があった。


「これ、エメットさんが?」


「違いますよ。あたしがここに来た時には、イセザキさんが死体になってました」


「反撃したんですが、あまりに数が多かったもので。二人とも斃れるわけにも行かず、僕だけ一旦、避難したんです。そこにエメットさんが突然、現れたので……まさかとは思いましたが」


 ということは、イセザキとシオバラの2人が魔狼(オーグ)を殺したのか。

 魔物を相手に戦うなんて、只者ではないのかも知れない。


魔狼(オーグ)から血を取るわ……」


 死んだ魔狼(オーグ)から血を抜き、ロシルは蘇生の準備を整えた。


「【REZEFADE(リゼフェイド)】……」


 魔本から生命の息吹を包み込んだ光が浮かび上がり、死体の中へと吸い込まれていった。

 魔法は傷を癒やし、そして身体の持ち主を死の淵から引き上げる。


 イセザキは無事に息を吹き返した。

 辺りを見回し、そして私たちを見て目を見開いた。


「君たち、どうしてこんなところに……いや、どうやってここに?」


「内覧会の最中に部屋の壁に触ったら、ここまで飛ばされてしまったんです。まさか、イセザキさんたちも?」


「そうなんだよ。まさかこんな場所に出るなんて思ってなくてね」


 イセザキは壊れた眼鏡を鞄にしまい、リーズ様の手を借りて立ち上がった。


「あたしが探し出してなかったら、きっと死んだままでしたよ! 良かったですね!」


 エメットは私たちの心配をよそに、満面の笑みを浮かべている。

 元はと言えばエメットを助けようと思っていたのだが、結果的には良かったのだろう。


「伊勢佐木さんが探りたがるから、こんなことになったんですよ。彼女たちがいなかったら、どうなっていたことか」


 シオバラが溜息をつくと、イセザキは肩を落とした。


「悪かったよ、塩原君。それにしても本当に助かった。ありがとう。なんとお礼を言ったらいいやら」


「それは、こちらのロシルさんに言ってあげてください。彼女が魔法で蘇らせたんです」


「ありがとう、ロシルさん。どうもはじめまして」


 イセザキとシオバラは頭を下げながら、反射的に名刺を取り出している。

 ロシルは怖ず怖ずと名刺を受け取ったが、友好的な2人の人間に対して疑問を抱いていることは間違いなかった


「どうして人間が……?」


「それは説明すると長いんですが、魔族と人間は和解したんです。魔族も人間も対等な関係になったんですよ」


「そうなの……?」


 ロシルは驚きのあまり呆けた表情を浮かべた。

 言葉では簡単に言っても、それを受け入れるには私も時間が必要だった。


「ここでの時間はまるで悠久のように長かった。それでも、外の世界も変わったのね……」


「ロシルさん……」


「込み入ったこともあるだろうけど、早くここから出よう。また死体にされたら困るからな」


 イセザキは血を抜かれた魔狼(オーグ)を見下ろし、不快感を露わにしている。


「ロシル。君も来ないか」


 リーズ様が呼びかけると、ロシルは自分の肩を抱いて身を屈めた。

 ロシルは小さく震えている。


「まずは、出口まで向かう……。貴方たちは帰るんでしょ?」


 ロシルは拾った枝で地面に魔法陣を描き始めた。


「【TIOMENTE(ティオメンテ)】……」


 生贄となった魔狼(オーグ)の死骸が溶け、魔法陣の中心に時空を越える穴が開いた。

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