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吸血鬼さんのおもてなし ~ 旅と歴史とダンジョンと  作者: ミュスター観光騎士団
最大の古城グラープ城の隠しダンジョン
61/103

61. 錬金術師の魔法

 エメットを探し出すためには、まだロシルを頼る必要があった。


「ロシルさん。このダンジョンにいる探索者を調べてもらえませんか」


「いいわ……。魔本があちこち破れているから、どうなるか分からないけれど……」


 長衣の袖から黒い装丁の魔本を取り出し、ロシルは詠唱を始めた。

 それは洗練されたノームの魔法体系だった。


「【ZONPERI(ゾンペリ)】……」


 砂の上を見えない魔法の指がなぞり、森や海を示す線を描き始めた。

 見る見るうちに地図が出来上がり、そして森林を示す領域の中に十字架の印が浮かび上がった。


「死んでる」


「そんな……」


 死体となって、エメットは私たちを待っているのかも知れない。

 とにかく死体を調べに行かなければ。


「お願いです、ロシルさん。きっとそこにエメットさんが、仲間がいるんです! 貴方の力を貸してください!」


 私はロシルの手を握って懇願した。

 ロシルは肩を落として溜息をついた。


 しかし、その表情は会ったばかりの時よりも少し明るくなったようだった。


「最早、神は私を見捨てたと……思っていた。だけれど何かの縁……。探して、蘇らせればいいのね、貴方たちの仲間を……」


「ありがとう!」


 私たちはロシルを支えながら、地図が示す印に向かって歩き始めた。

 少なくとも、これでエメットを助けることができるはずだった。


 森林に入ると、すぐに魔物の瘴気が漂っていることに気付いた。

 自然と足取りが重くなり、息遣いも小さくなる。


 森の中に開けた場所があった。

 崩れた石壁の近くに木で組まれた墓標が立ててある。


「人間も魔族も皆、死んだわ……飢餓と寿命でね……。私は波に流されないように、彼らを森に埋めた。それしかできなかったの……」


 途切れ途切れにロシルは呟く。

 その一言一言が懺悔のようだった。


「君は1人で耐えてきたんだな」


「そうなのかも知れないわね……」


「ここに留まっていていいのか」


「他に道が無いから……」


 話しながら、私たちは森の奥へと進んでいった。

 魔物の瘴気は次第に強くなっているようだ。


「このまま先に進むのか」


「魔物がいれば、押し通るしかない……」


「強気だな」


「そうでもしないと森の中まで入って、遺体を埋めることなんて、できないでしょ……」


 ロシルは皮肉っぽく笑みを浮かべて言った。

 そして茂みの向こうに顔を向けた。


 ロシルは魔本のページを開き、気を溜め始める。

 彼女にしか見えない何か(・・)がいる。


「【LAROID(ラロイド)】!」


 それは錬金術師の魔法だった。

 魔法使いでも聖職者でもない、一部の選ばれし探求者のみが習得する魔法。


 魔本から放たれた雷撃の鞭が木々の枝を薙ぎ倒し、茂みの中にいた魔物を直撃した。

 茂みが揺れ、魔物が次々に姿を現す。


 魔狼(オーグ)の群れが、舌をだらんと垂らして痺れに震えている。

 すべての敵を麻痺させ、無力化できたようだ。


「まだ来るわ……」


 茂みをかき分けて現れたのは、巨大な岩のゴーレムだった。

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