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吸血鬼さんのおもてなし ~ 旅と歴史とダンジョンと  作者: ミュスター観光騎士団
ミュスターの旧領主館 高島邸
51/103

51. 真相

 見慣れない魔物が山を下って集落に現れれば大変なことになる。

 アルヴィは急いで車を走らせた。


 カーブを曲がる度に、バックミラーにぶら下がる兎の人形が左右に揺れる。

 リーズ様よりもさらに荒い運転だった。


 観光案内所に辿り着く時には三半規管がおかしくなっていた。

 ふらふらになりながらも扉を開く。


 中ではエメットが漫画を読みながら待っていた。


「あ、おかえりなさい。なんか焦ってるみたいですけど、何かありましたか」


「私の館に魔物が出て……」


「魔物? 嘘でしょう。この辺に魔物なんて二角獣(バイコーン)しか出ませんよ」


 エメットはまるで興味なしといった態度で漫画越しに言った。


「こちらには下りてきていないようだし、しばらく様子見するしかなさそうだね」 


 アルヴィは待合スペースの椅子に座り、スマホをいじり始めた。


「安心はできませんが、仕方ないですね」


 そんなことを言っているうちに、私たちの後ろで扉が開いた。


「今、戻ったぞ――」


 中に入ってきたリーズ様の声が途切れる。

 リーズ様はアルヴィを見つけて目を見開いた。


「やぁ、リーズ。会いたかったよ」


 アルヴィが顔を上げ、口元に笑みを浮かべる。

 親しみのこもった言葉に、私は胃が痛くなる思いだった。


「リーズ様! あの、リーズ様にまさか彼氏がいらっしゃると、私、知らなくて……今まで、無遠慮なことを……」


 私は思いをうまく言葉に出せず、しどろもどろになりながら言った。

 私は何をやっているんだろう。


 リーズ様ほどの美貌であれば、それに釣り合う男がいて当然ではないか。

 しかし、叶わぬ夢であっても、叶わぬからこそ、リーズ様に認めてもらいたかった。


「兄上……」


 リーズ様が呟いた。

 兄?


「兄上、ルビーに自己紹介したのか?」


「いや、忘れてた」


「エメットは?」


「漫画読んでました。気付かなかったです」


「全く、これだから」


 リーズ様は呆れたように頭をかいた。


「紹介が遅れて申し訳ない。兄のアルヴィだ」


「兄……」


 ということは、彼氏ではない。

 私は脱力した。


「リーズの友達が増えたって聞いて、どんな感じか知りたくてね。可愛い妹に悪い虫がついたら困るだろう?」


「ルビー、兄上から何かされなかったか」


「それは秘密、だよね?」


 アルヴィは私に流し目を送りながら、くすくすと笑った。


「それより、領主館に魔物が出たんだ」


「なんだって」


「気をつけたほうがいい。窓も壊されちゃったし、修理を呼んだほうがいいよ」


 アルヴィはカウンターに座っていたエメットに金を払うと、その場で置いていたお土産の1つを開けた。

 二角獣(バイコーン)の形に焼いたショートブレッドクッキーを口に運ぶ。


「壊れた窓ですけど、障子にしますか、すだれにしますか」


「いや、普通にガラス付けてください」


 魔物が出たというのに、エメットの調子は変わらない。


「魔物のことは心配だが、折角、兄も来ているし、今晩は皆で食事をとろうか」


「ウルリカにも会いたいなぁ。呼んでくれるかな?」


「良いですね。ちょっと待ってください」


 エメットがスマホで電話をかけ始める。


「あれ? 留守電です。珍しいですね。留守にしているわけではないと思うんですけど」


「教会に直接行って見てこようか?」


「そのほうが良いかも知れないですね。魔物もいるかも知れないですし」


 アルヴィと私は車に乗り、センフェス・イオシフ教会へと向かった。

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