48. 彼氏?
芳しい高山植物の香りとともに観光案内所に入ってきたのは、エルフの青年だった。
穏やかで凛々しい顔立ちに、砂色の髪の毛、特徴的な稲穂耳、ベージュのトレンチコート。
「ここがミュスター観光……騎士団で、あってるよね」
「はい、そうです。ようこそ、ミュスターへ」
私は少し緊張しながらもエルフの青年に応対した。
リーズ様もエメットもいない以上、私が彼を案内しなければならない。
「リーズが言ってた吸血鬼って、君のこと?」
「え?」
「吸血鬼だよね」
「え、あ、はい」
リーズ様のことを知っている。
しかも、リーズ様から私のことを聞いている。
「最近、リーズにちょっかいを出してる奴がいるって聞いて、心配になってきたんだけどね」
まさか。
こいつは。
リーズ様の彼氏?
リーズ様はそんなこと今まで一度も言ってなかったのに。
ここで消しておくべきか。
いや、早まるな、私。
「リーズは留守か……。僕はアルヴィ。君は?」
「ルビーです」
「綺麗な名前だね。君の瞳と同じで」
優男は私に顔を近づけて言った。
仄かなシトラスの香り。恐らく高級ブランドの香水。
「ミュスターは久しぶりだけど、いつ来てもいい街だね。君もそう思わない?」
「え? えぇ。空気も綺麗ですし、静かでいい街です」
「だよね。リーズが気に入るのも分かるなぁ」
私はアルヴィと名乗るエルフのペースに飲まれていた。
リーズ様への馴れ馴れしい態度から察するに、かなり親しいか、一方的に恋心を抱いているか、どちらかに思える。
「最近、閉鎖されてた領主館が改装されたって聞いたんだけど、案内してくれる? 少し時間も潰したいし」
他に観光客が来るような予定もない。
ここは希望に応えるほうが良いだろう。
「分かりました。エメットさん! ちょっと外を回ってきますから、留守番していてください!」
「……はぁーい」
バックヤードから間の抜けた声が返ってくる。
本当に大丈夫なのか不安になったが、仕方ない。
私はエメットを残して、アルヴィを私の館へ案内することにした。
外に停めてあったアルヴィの車に乗り込み、館への道を指示する。
鮮やかな紅葉を横目に、車は山道を上っていく。
「リーズは元気?」
ヘアピンカーブを器用に曲がりがら、アルヴィが問う。
「あの……アルヴィさんはリーズ様とどのようなご関係で……?」
私は現在の最大の疑問を口にした。
「"様"って、君のほうこそ気になるよ。どういう関係なのか詳しく教えてもらいたいね」
奇妙な腹の探り合い。
「わ、私は、その……リーズ様とは……えっと……」
「着いたよ。お嬢様?」
素早く車から降りると、アルヴィは助手席の扉を開いた。




