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吸血鬼さんのおもてなし ~ 旅と歴史とダンジョンと  作者: ミュスター観光騎士団
伯爵の官邸ヴァデュッツ城のダンジョン
46/103

46. 家族

「うちは兄弟姉妹が多かったんですよ」


 シードルの瓶を傾けながらエメットは言った。


「両親は放任主義っていうんですか。ご自由にどうぞって感じだったんで、一番上の子だったあたしが下の相手をしていて。皆を飽きさせないようにするのが大変でした」


「エメットは昔から面倒見が良かったんだ」


「遊んでただけですけどね。そんな大層なことじゃありません」


 エメットは瓶の蓋を指で弾いて、コイントスのように何度も真上に飛ばしている。

 昔から注目を集めるのが得意だったのだろう。


「家事手伝いデスマッチと称して、チビたちを"スーパーマリモカート"でバトルさせるのが面白かったんですよ。実況はあたしで」


「なんかやっぱり発想がずれてる」


「まぁ、最後に家事手伝いするのはあたしだったんですけどね」


「デスマッチの意味は……?」


 もしかすると意味なんてエメットにとってどうでもいいのかも知れない。

 話からしても、エメットは割りを食っていたわけではなく、純粋に遊びを楽しんでいたように見える。


「まぁ、家族の数が多かったんで、大変なこともありましたけどね。養育費も馬鹿にならないわけで。だから、あたしが観光地で人間向けのお店で働いて家計の足しにしたり。今も昔と同じですよ」


「エメットさんにもきちんとした目的があったんですね」


「うーん。そうですかね」


 エメットは気恥ずかしさを隠すためか、シードルを一気に飲み干した。


「でも、別に人間相手じゃなくて良かったですけどね。お金を稼ぐ方法なんていくらでもありますし」


「しかし、人間に向けて観光地をアピールしようと、ミュスター観光騎士団を最初に提案したのもエメットじゃないか」


「あの時は……面白いと思ったんですよ。リーズさんも騎士になりたいって言ってましたし、丁度いいかと」


「そうだったか」


「1人でやってたらミュスター観光騎士団、総勢1名推参! ってなっちゃうじゃないですか。寂しすぎるでしょ」


「エメットなら1人でもやっていけると思うが」


「遺跡荒らしもソロだとライバルもいて厳しいですからね。リーズさんがいて良かったですよ。観光地が増えれば来る人間も増えますから」


 遺跡荒らしにライバルなんているのか。


「まぁ、私もいい歳ですし、仕事のこともちゃんと考えますって」


「あれ……? エメットさんっておいくつですか」


「25ですけど」


「え?」


「エメットは娘もいるぞ。日本のインターナショナル・スクールに通っているはずだ」


「え?」


 既婚者。

 しかも子持ち。


「ルビーさん、なんかすんごい失礼な反応してません?」


「すいません」


 もっと下だと思っていた。

 本当にいい歳だった。


「私、もしかしたらエメットさんのこと、誤解していたかも知れません」


「そうですかね?」


「エメットさんを不真面目で狂っているなんて言ってすいませんでした」


「改めて言われるとかなりきついワードだわそれ」


 エメットは2本目の瓶を開けると、私とリーズ様にコップを渡してシードルを注いだ。


「まぁ、そういうわけですよ。ルビーさん。これからは魔族と人間の友好のため、エルヴェツィア大陸の将来のため、楽しく観光案内して、人間の財布からガッポガッポ稼いでいきましょう」


「最後に本音が出ちゃってますよ」


「冗談ですって! 冗談!」


 相変わらず本心は掴めないが、それでもエメットにも彼女なりの理由があることが分かっただけでも良かった。

 どちらかというと私のほうが異常すぎるようにも思えるが。

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