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吸血鬼さんのおもてなし ~ 旅と歴史とダンジョンと  作者: ミュスター観光騎士団
伯爵の官邸ヴァデュッツ城のダンジョン
44/103

44. クロスタ=セルナ

 大きく張り出した破風。花が飾られ、装飾が施された窓辺。

 切妻屋根が連なるクロスタ=セルナの街並みは一貫性があり、調和がとれている。


 クロスタ=セルナはホテルと貸し別荘が多い。 

 2~5階建ての大きな山小屋スタイルの家々が建ち並び、観光客を迎えてくれる。


 モルタルで固めた外壁の多くはカラフルなカントリースタイルで彩られていた。

 しかし、一旦、中に入るとノスタルジックで温かみのある木目の壁板に包まれる。


 私たちはそのような小さなホテルの一室を借りた。

 皆で1つの部屋。


「あたし、ちょっと買い出しに行ってきますね」


「待ってください」


 クロスタ=セルナのホテルに着くと、エメットはすぐに近所のスーパーマーケットに行こうとした。

 私はエメットのことが気がかりで、すぐに引き止めた。


「何ですか?」


「少し話をしましょう」


「……」


 私はエメットをテーブルにつかせた。

 リーズ様にも同席してもらう。


 エメットはいつものようにソファの上で足をぶらぶらさせ、私が話を切り出すのを待っていた。


「今日もお疲れ様でした」


「はーい。お疲れ様でした」


「今日のこととは全然、無関係ですが、私のことを話します」


「ルビーさんが自分のことを話すなんて珍しいですね」


 私の記憶の大半はエルヴェツィア大陸が魔界にあった頃のものだ。

 私は若くして吸血鬼になり、その身を戦争に捧げてきた。


「吸血鬼になる前、私はただの人間でした。何かしていたというわけでもなく、農村で暮らしていました」


 両親は私が生まれてすぐに病気で亡くなった。

 私は修道院に預けられた。


 当時、魔族と人間の戦争はあったものの散発的なもので、魔族の優位は覆らなかった。

 一方が押しても、他方が押し返す。その繰り返し。


 魔族も人間も決して一枚岩ではなく、人間に武器を供与するドワーフや、ノームの魔法体系を学んで魔族の軍事顧問になる人間もいた。

 人間の王侯貴族たちは、魔族に人間の奴隷を預けたり売ったりして、その地位を承認されていた。


 そのうち、どこからか1人の人間が勇者として担ぎ出された。

 勇者は人間たちに現状の打破を説き、魔族からの奴隷解放を訴えて戦い始めた。


 私の暮らす村にも人間の宣教師と傭兵隊が訪れ、宣教師は戦争と救済を説いた。

 村にいた魔族はその場で捕らえられ、全員が広場で焼かれた。


 女でも長銃や魔法が使えれば戦えると諭され、少女たちも傭兵たちの野営地に放り込まれた。

 だが、一緒にいた年嵩の少女たちは傭兵たちの慰みものにされた。


 私は幼かったため、水を汲んでくるとか、編み物をするとか、取るに足らない雑用をしていた。

 宣教師の説いた戦争も救済もやって来なかった。


 ぼんやりとした認識のうちに時間は過ぎていった。

 戦争なんて早く終わって、宿営している傭兵が去っていけばいいのにと、誰もが思っていた。


 そのうちに、どこからか1人の君主(アークデーモン)が魔王として担ぎ出された。

 勇者に対抗するという大義名分で、空位になっていた魔王の位が復活したのだ。


 しかし、魔王は重病だった。

 担架が無ければ移動できないような有様だった。


 その姿は憐憫を誘い、そして誰もが同情した。

 きっと勇者に敗れ、和平が結ばれるものだろうと、人間も魔族も予想した。


 しかし、勇者と魔王の戦いは簡単に終わらなかった。

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