43. 錬成
「毒蜘蛛に襲われるなんて、すっごくスリリングだったよね!」
「ね! ダンジョンにも来て良かったー!」
少しハプニングもあったが、セミロングとミディアム・ボブはダンジョン見学にご満悦のようだった。
観光ガイド冥利に尽きるというものである。
「ちょっと小腹が空きませんか?」
エメットは微笑みながら2人に尋ねた。
「確かにお腹空いてきたね」
「もしかして、またオススメのグルメあるんですか?」
2人は期待を込めた視線をエメットに送る。
「さっき、ダンジョンの受付でバーベキュー場を借りてきたんですよ。そこで作ったものなんですが、良かったらどうぞ」
それは揚げ物だった。
2つの黒っぽい球が連なっている。
私の直感が警報を鳴らした。
これは、アレだ。
「じゃあ、いただきまーす」
「私もー」
私が止める間もなく、2人は正体不明のフライを口に運んでいた。
「これ、すごいジューシー! ニンニク入ってるけど」
「味と食感は白身のフライに似てるかな」
「そうだよね!」
2人は夢中でフライを食べている。
私はエメットを掴んで引っ張っていき、耳打ちした。
「エメットさん……怒らないから言ってください」
「何をですか?」
「あのフライの材料を手に入れたのは?」
「ダンジョンの中ですね」
「私たちが毒蜘蛛と接触したのは?」
「ダンジョンの中ですね」
「最後に。蜘蛛の死骸はどこに行った?」
「……君のような勘のいいガキは嫌いだよ」
やっぱりアレで錬成しちゃってる。
私は思わず頭を抱えた。
「前々から貴方はちょっと不真面目な人だと思っていましたけど、本当は違いました。貴方は狂ってます」
「高温の油ですから毒も抜けていますよ。無問題です」
「問題は毒だけじゃないでしょ!」
「言わなきゃ分からないです。バレなきゃイカサマじゃないんですよ」
エメットは浅ましくニヤつきながら答えた。
「ルビーさんの真似、してみたかったんですよ。あたしも美味しいダンジョン飯を作りたかったんです」
「そう言われると反論しにくいですが。何もアレで試さなくてもいいでしょ」
「ルビー、エメット、どうしたんだ。何か問題でもあるのか」
リーズ様が私たちの下へ近寄ってきた。
助かった。リーズ様にもエメットがまともになるように言ってもらおう。
「大丈夫です。ちょっと秘密の相談です」
「秘密か。分かった。私たちは待ってるから、気が済むまで話していてくれ」
「え? あ、ちょっと、リーズ様……」
「いつもなんでもオープンに話しているエメットが秘密の話なんて珍しいからな。よほどのことだろう」
違う。
そうじゃない。
「これ以上、あたしを詰問するならアレのことをバラしますよ。いいんですか」
「エメットさん。貴方、観光客にポイズン・キャットだけでなく、アレまで食べさせて。こんな調子だときっと後悔しますよ」
エメットは私の言葉を聞くと目を伏せた。
「……人間なんて、利用してやればいいんですよ。魔族は人間を利用しないと生きていけないですから」
エメットは呪詛のように呟いた。
いつもより数段、明るいトーンで言っている分、そのギャップに驚く。
「ルビーさんは質問ばかりでズルいです。これは仕事なんですから、もっとドライでもいいじゃないですか」
「それは……」
「ほら、観光客を待たせちゃいけませんよ! 行きましょう!」
エメットは私の手を掴んで駆け出した。
その後、私たちは鉄道駅まで観光客を見送り、クロスタ=セルナへの帰路についた。




