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吸血鬼さんのおもてなし ~ 旅と歴史とダンジョンと  作者: ミュスター観光騎士団
伯爵の官邸ヴァデュッツ城のダンジョン
43/103

43. 錬成

「毒蜘蛛に襲われるなんて、すっごくスリリングだったよね!」


「ね! ダンジョンにも来て良かったー!」


 少しハプニングもあったが、セミロングとミディアム・ボブはダンジョン見学にご満悦のようだった。

 観光ガイド冥利に尽きるというものである。


「ちょっと小腹が空きませんか?」


 エメットは微笑みながら2人に尋ねた。


「確かにお腹空いてきたね」


「もしかして、またオススメのグルメあるんですか?」


 2人は期待を込めた視線をエメットに送る。


「さっき、ダンジョンの受付でバーベキュー場を借りてきたんですよ。そこで作ったものなんですが、良かったらどうぞ」


 それは揚げ物だった。

 2つの黒っぽい球が連なっている。


 私の直感が警報を鳴らした。

 これは、アレだ。


「じゃあ、いただきまーす」


「私もー」


 私が止める間もなく、2人は正体不明のフライを口に運んでいた。


「これ、すごいジューシー! ニンニク入ってるけど」


「味と食感は白身のフライに似てるかな」


「そうだよね!」


 2人は夢中でフライを食べている。

 私はエメットを掴んで引っ張っていき、耳打ちした。


「エメットさん……怒らないから言ってください」


「何をですか?」


「あのフライの材料を手に入れたのは?」


「ダンジョンの中ですね」


「私たちが毒蜘蛛と接触したのは?」


「ダンジョンの中ですね」


「最後に。蜘蛛の死骸はどこに行った?」


「……君のような勘のいいガキは嫌いだよ」


 やっぱりアレで錬成しちゃってる。

 私は思わず頭を抱えた。


「前々から貴方はちょっと不真面目な人だと思っていましたけど、本当は違いました。貴方は狂ってます」


「高温の油ですから毒も抜けていますよ。無問題です」


「問題は毒だけじゃないでしょ!」


「言わなきゃ分からないです。バレなきゃイカサマじゃないんですよ」


 エメットは浅ましくニヤつきながら答えた。


「ルビーさんの真似、してみたかったんですよ。あたしも美味しいダンジョン飯を作りたかったんです」


「そう言われると反論しにくいですが。何もアレで試さなくてもいいでしょ」


「ルビー、エメット、どうしたんだ。何か問題でもあるのか」


 リーズ様が私たちの下へ近寄ってきた。

 助かった。リーズ様にもエメットがまともになるように言ってもらおう。


「大丈夫です。ちょっと秘密の相談です」


「秘密か。分かった。私たちは待ってるから、気が済むまで話していてくれ」


「え? あ、ちょっと、リーズ様……」


「いつもなんでもオープンに話しているエメットが秘密の話なんて珍しいからな。よほどのことだろう」


 違う。

 そうじゃない。


「これ以上、あたしを詰問するならアレのことをバラしますよ。いいんですか」


「エメットさん。貴方、観光客にポイズン・キャットだけでなく、アレまで食べさせて。こんな調子だときっと後悔しますよ」


 エメットは私の言葉を聞くと目を伏せた。


「……人間なんて、利用してやればいいんですよ。魔族は人間を利用しないと生きていけないですから」


 エメットは呪詛のように呟いた。

 いつもより数段、明るいトーンで言っている分、そのギャップに驚く。


「ルビーさんは質問ばかりでズルいです。これは仕事なんですから、もっとドライでもいいじゃないですか」


「それは……」


「ほら、観光客を待たせちゃいけませんよ! 行きましょう!」


 エメットは私の手を掴んで駆け出した。

 その後、私たちは鉄道駅まで観光客を見送り、クロスタ=セルナへの帰路についた。

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