42. ドワーフの戦士 スタニスワフ
地表に戻った後、私たちは受付のシャワー室を借りた。
ダンジョン内を歩き回ると、けっこうな運動になる。
観光客2人が先にシャワーを浴びている間に、私はスタニスワフの下へ向かった。
スタニスワフは仕事中であるためかスマホも持たず、手持ち無沙汰のようで、壁に背を預けてダンジョンの入り口を見つめている。
「スタニスワフさん」
「ん。なんじゃ、吸血鬼のお嬢さん」
スタニスワフは我に返ったように私に視線を移した。
「さっきのことですが、リーズ様も悪気があって毒蜘蛛を取り逃がしたわけじゃないんです」
「そんなことは承知しておる。しかし……」
「エルフとドワーフが不仲なのも知っています。でも、それは昔のことでしょう?」
「お嬢さんは長く生きてきたようじゃ。それなら尚更、分かるはずじゃろ。わしらの間の関係はどうしようもない」
スタニスワフはバツが悪そうに、再び遠くを見つめた。
「魔王がいた頃、エルフとドワーフはなんとか一線を越えないように付き合っておった。しかし、魔界が地球に転移し、魔王という最後の糸が切れると、2つの種族はすぐにエルヴェツィア共和国から独立した。そして、それまでの不満を爆発させたのじゃ」
ドワーフ社会主義共和国は中国から支援を受け、革命政府を発足させると、すぐに国内に住んでいたエルフを弾圧した。
エルフの王国であるスカーディナ王国は亡命者を受け入れ、ドワーフたちを非難した。
彼らの争いが戦争に発展しなかったのは、米ソの工作員によって内戦の危機を抱えていたからだった。
お互いに国内の反政府勢力に対処しているうちに、冷戦は終わった。
「湿っぽい話は無しじゃ! お嬢さんの言いたいことも、考えていることも分かる! じゃが、わしはただの観光ガイド。できることは僅かじゃ」
スタニスワフはゆっくりとリーズ様のほうへと歩いていった。
「先ほどは言い過ぎたようじゃ。すまんかったな」
スタニスワフはリーズ様に頭を下げた。
「いや、私のせいで観光客を危険な目にあわせてしまった。それに、腕の怪我も……本当にすまない」
「こんな傷は大したことはないと言ったじゃろ。わしが不覚を取った。それだけじゃ」
「貴方は……本当に気高い戦士だ。私も貴方のようになれればいいのだが」
「褒めても何も出んぞ。わしは祖国を捨てて亡命してきて、観光ガイドをしているだけの身じゃからな」
「しかし、観光ガイドも簡単な仕事ではない。貴方のおかげで実感した」
「そう思うのならば、研鑽を積むことじゃ」
スタニスワフは一枚の封書を取り出した。
「最近、新たな遺構の公開が決定した王宮の内覧会じゃ。生憎わしは仕事で行けんから、代わりに出てみたらどうじゃ」
「いいのか」
「レセプションだのパーティだの堅苦しいのは苦手なんじゃ。向こうの作法を見て学ぶのも良いじゃろ」
「ありがとう……!」
リーズ様はスタニスワフの手を取り、固く握り締めた。




