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吸血鬼さんのおもてなし ~ 旅と歴史とダンジョンと  作者: ミュスター観光騎士団
始まり
4/103

4. 吸血鬼、混乱する

 私は鼻血を拭き取って、話を戻した。

 現状把握が必要である。


「ところで、吸血鬼が全滅したと仰っていましたけど、私が眠っている間に何があったのですか」


「魔族同士の紛争です。ドワーフを甘く見過ぎましたね」


 エメットは他人事のように言った。


「どうして……」


 魔王が魔族をまとめあげ、歯向かう人間たちを下し、世界を平定したのではなかったのか。


「魔王が世界を手中に収め、平和が訪れたはずでは」


「紛争が始まる前に死にましたよ、魔王なんて」


「そんな……一体、誰が魔王を打ち倒したのですか」


「歴史の教科書によれば、魔王の諮問機関である枢密院で反乱があって、魔王を処刑したそうです。クーデターですね」


 魔王を処刑するだと。

 そんな力を枢密院が持っているはずがない。


「エメットさん。貴方、私を騙そうとしているのでは」


「騙してどうするんですか」


「さっき、海外の動物園でどうとか……」


「冗談に決まってるじゃないですか! いやだなー!」


 エメットは両手を顔の前で大きく振って否定するが、多分、冗談じゃない。

 まだ笑顔のままだし。


「きっと人間どもの陰謀に違いありません。魔王が簡単に殺されるわけが……」


「吸血鬼さんは随分と古い時代の方みたいですね」


「その人間たちは、今では魔族の良き隣人だ」


 ありえない。

 魔族と人間はずっと敵対していたのに。


「嘘です。人間どもは魔族にとって敵です。人間どもの精気を喰らうため、魔族は人間を支配下においたはず」


「落ち着け。ちゃんと説明するから」


 リーズ様が私の肩に手をおいた。

 その一瞬で、不思議と混乱と不安が少し和らいだ。


「歴史認識がぶっ飛んでますよ。ここ60年分くらい」


「60……年? なんですか、年って」


「今の暦ですよ。人間の社会に合わせて改暦しました」


 私は思わず手で顔を覆った。

 人間の暦を採用するなんて、魔族は一体どうなってしまったのか。


「別にどうでもいいですけどね。あと、適当に調べ終わったら用済みですし、ここも」


「ひょっとして、お二人は墓暴きなのですか」


「墓のために館に入る奴がいるわけないでしょ」


「ではどうして」


「遺跡荒らしです。あたしは魔界時代の古い遺跡を漁ってお金を稼いでるんです! それでリーズさんと一緒に館を調べてたわけで。この館も良い遺構だと思ったんですけど、とんだ肩透かしでしたね。吸血鬼さんがいたのは思いがけない発見でしたけど!」


「墓暴きも遺跡荒らしも大差ないのでは……」


「あたしって、そんなアホに見えますか?」


「アホに見えます」


「吸血鬼さんのほうがアホですー! 何も知らないくせに!」


「じゃあ、貴方は何を知っているんですか」


「この館の主が、今はあたしだってことです。結構な値段で買い取ったんですから」


「え?」


「だから、家賃。今まで寝ていた分もきっちり払ってくださいね」


「え?」


「滞納するようだったら、すぐに出ていってもらいます」


「え?」


「そのアホ面を鏡でお見せできないのが残念です」


「吸血鬼は鏡に映りません」


「うるさーい! つべこべ言わずにお金出してください! お・か・ね!」


「いや、彼女はだいぶ昔の人だし、今のお金は持っていないぞ」


 このノームの戯言を聞いていたところで埒が明かない。

 私は一気に扉まで跳躍し、館の玄関へと向かった。


「どこへ行く気ですか!」


「この目で貴方の言葉が嘘だと確かめます」


 私は彼女たちを振り切って館の外へと飛び出した。

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