38. 郷土料理レストラン 城壁の鷲
昼食時になった。
ホテルに併設された伝統料理のレストラン"城壁の鷲"亭に入る。
「こちらのテーブルにどうぞ」
ゴブリンの店員に案内され、人間用のテーブルに着く。
エメットだけは子供向けのハイチェアに座った。
「シャンデリアに❤マークがついてる。可愛いー」
「お洒落なお店だね。写真撮っとこ」
第一印象は問題ない。
どんどん撮れ。
「オススメってどんな料理がありますか?」
「ライステイナム州の郷土料理をいくつか注文しましょう」
ゲルシュテンズッペは大麦のスープだ。
水に浸しておいた大麦を魔力草や薬草の茎、ドライビーフ、大口玉ねぎなどの根菜と一緒に煮て、バジリスクの卵とクリームを加える。
地方によって具にする野草や野菜に違いはあるが、舌触りが滑らかでコクがある。
栄養バランスも良いし、悪くないチョイスだろう。
乾燥肉料理の種類も多い。
豚のコッパとプロシュートも注文する。
メインディッシュはカスクノープル。
双頭の牛乳のチーズを絡めた卵入り生パスタ。
この地方では毒抜きしたポイズン・キャットの肉も食されるが、やめておいた。
日本人は猫を食べない。
「きゃー! 来たー!」
料理が運ばれてきただけでセミロングのテンションがMAXになる。
給仕のゴブリンも日本人観光客の対応には慣れているらしく、見栄えよく料理を置いていく。
「こっちから撮るね」
「うん!」
「"Instatrim"にアップして、と」
いつになったら食べ始めるんだ。
「それじゃいただきまーす」
「あ、これ好きかも」
「どれどれ?」
料理は突付かれるが、なかなか量が減らない。
メニューを開いていた時間よりも、写真を撮っている時間のほうが長いような気がする。
それにしても、食事中に写真を撮るというのは些かマナー違反に見える。
しかも、自分や友人を撮るならいざ知らず、料理ばかり撮っている。
日本人のセンスやマナーは奇妙だ。
「ガイドさんは何を食べてるんですか?」
「これですか? ポイズン・キャットですよ」
「猫!?」
エメットがさも当たり前のように答える。
私は奈落の底に落ちていくような気持ちになった。
ダンジョン全盛期にダンジョン内で食糧を現地調達していた冒険者たちでも、中毒の恐れから殆ど口にしてこなったのがポイズンキャットの肉だった。
魔族は平気で食べてきたが、人間の舌に合うかどうかはまるで分からない。
「美味しいんですか……?」
「味は殺人兎に似てますね。一口どうですか」
「兎も食べたことないけど……」
ミディアム・ボブが怖ず怖ずと差し出されたポイズン・キャットの肉を頬張る。
「どう……?」
「美味しい……かも?」
「それじゃ、私も」
どういうことだ。
人面ガニの軍艦巻きはダメなのに、ポイズンキャットのローストのは良いのか。
「ちょっと脂っぽい」
「でも不味くはないよね」
「うん」
2人はなんだかんだでエメットから二口目をもらっている。
猫だぞ。本当に良いのか。
これからは日本人の案内はエメットに任せたほうが良さそうだ。
私が理詰めでやっても上手くいきそうにない。




