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吸血鬼さんのおもてなし ~ 旅と歴史とダンジョンと  作者: ミュスター観光騎士団
伯爵の官邸ヴァデュッツ城のダンジョン
37/103

37. 使い魔博物館

「あー、びっくりしたー」


「死体見せる美術館とかある?」


「ありえないよね」


「やっぱり魔族のセンスってアレ(・・)なのかな……」


 美術館のカフェでコーヒーを飲みながら、日本人2人は感想を述べていた。

 恐らく今回の体験は語り草になるだろう。別の意味で。


「ここのカフェ、お寿司も出してるんですよ。クラーケンの握り寿司とか人面ガニの軍艦巻きとか」


「カフェで寿司……?」


「い、今は結構です」


 私の提案は二言目で却下された。

 馬鹿な。


 日本人は寿司で確実に落ちるはずではなかったのか。

 蟹を上回る味と評判の高級カニカマ"香り匣"にも匹敵する、人面ガニの軍艦巻きに食いつかないなんて。


 日本人の思考回路は理解できない。

 こうなったら最初から魔族向けの観光スポットに行ったほうがマシかも知れない。


「次、どこ行こっか」


「この使い魔博物館って?」


 使い魔は魔界で連絡に使われていた小さな魔法生物のことだ。

 飛行能力を持った小型のゴーレムやホムンクルスが多い。


 使い魔は初め、召喚した小さな魔物を利用していた。

 しかし、遠くに離れると魔法の制御を外れることが多く、代替案が求められた。


 そこで、既存の魔物を作り変え、使い魔にする手法が編み出された。

 それでもやはり魔法による制御は必要で、製造に手間もかかっていた。


 さらに実用性を求め、ドワーフとゴブリンが開発したのがゴーレムだった。

 当初はメッセージを紛失するなどのトラブルもあったが、改良を重ねて今では最も普及している。


 博物館自体は小さいが、展示物も小さいので十分に楽しめるように工夫されていた。

 お土産にここでしか買えない記念使い魔も購入できる。


 入場料は無料。

 博物館に並んだ展示箱には、所狭しと使い魔が収められていた。


「これ、ちっちゃいムクドリみたい」


「なんかマスコットキャラみたいで可愛いね」


 鳥や蜂を象ったホムンクルス、ネズミや甲虫に似せたゴーレム。

 2人はゴブリンの生み出した美しく精巧な擬似生物に目を奪われている。


 少し前は自動販売機でも使い魔を販売していたらしいが、今はめっきり見ない。

 需要が減ったためだろう。


 このご時世、魔族同士でも連絡手段は電話やメッセンジャー・アプリに置き換わった。

 しかし、現在でも熱心な使い魔コレクターは相当数いる。


 使い魔は情報の機密性を保つため、使い切りのものしか存在しない。

 コレクターはできるだけ手作りで精密な、未使用の珍しい記念使い魔を収集する。


「使い魔って、どういう風に使うんですか?」


「行き先を伝えれば勝手に飛んでいきます。昔はこっそり駅馬車に乗り込んだりして移動したみたいですね」


 行き先以外の場所で捕らえられないように、使い魔は魔族の交通機関を優先して利用する。

 最近では行き先の近い使い魔同士が一箇所に集まって、専用の船便や列車を利用する光景も見られる。


 国境を越える使い魔の国際便もあるが、限られた国と地域でしか運用できていない。

 国交を結んだ国相手でも、使い魔を郵便と認めていないことも多い。


 理由はシンプルである。

 使い魔はか弱い生物を装っているが、人間を食う。


 長距離移動のためにはエネルギーの補給が必要だ。

 使い魔は家畜などの動物を食ってエネルギーを現地調達する。


 最近は補給しないで移動できる省エネ型や電気式の使い魔も増えているが、すべてではない。

 人間に噛み付く獣くらい自然にも存在していると思うのだが、人間はそれが気に食わないらしい。


「そいつら、人間を食べながら飛び回りますよ」


 なんでそこで言わなくていいこと言っちゃうかなー!

 エメットさんはー!


「えー! 嘘ー!」


「こんなに可愛いのにー?」


「冗談ですよ、冗談」


「ですよね!」


「頭にクロスボウ・ボルトが刺さったリンゴ型の使い魔が記念に売られてますから、一匹どうですか? 日本にも送れます」


「それじゃ実家に送ってみようかなー」


 2人がリーズ様と一緒に記念使い魔を送り出している間に、私はエメットに耳打ちした。


「エメットさん、お願いですから変なこと言うのやめてください」


「変なことって?」


「使い魔のことですよ」


「死体の覗き穴に比べれば大したことないじゃないですか」


「大したことですよ」


「穴と違って、底が知れている」


「何を上手いこと言ってるんですか」


「ルビーさんはクソ真面目すぎるんですよ。リラックス、リラックス」


「エメットさんは不真面目すぎると思いますけどね……」


 一抹の不安を抱えたまま、私たちは次の観光スポットへと向かった。

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