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吸血鬼さんのおもてなし ~ 旅と歴史とダンジョンと  作者: ミュスター観光騎士団
ディヴォウズの最高峰ヴェッスファル山とランドカジノ
33/103

33. ハーフエルフ

 スイートルームのキングサイズベッドで、私とリーズ様は横になった。

 リーズ様の血のおかげで、私の心はだいぶ落ち着いてきていた。


「リーズ様。ご心配をおかけして申し訳ありません」


「謝る必要なんてない。君は大変な時代を生きてきた。悩むのも当然だ」


 リーズ様は私のほうへと手を伸ばし、そして優しく握った。

 柔らかく、そして力強くもある。


「まだ言っていなかったが、私はハーフエルフだ」


 リーズ様が呟くように言った。


 ハーフエルフはエルフと他の魔族の間に生まれた者のことを指す。

 彼らは戦争の時代から現代まで、純血のエルフから謂れなき中傷の的にされた。


 エルフと人間の関係は、エルフとドワーフの関係ほどではないが、冷え切っている。

 エルフは血統に誇りを持つ魔族であり、魔王の処刑直後にはいち早くナショナリズムに沸いた。


 エルフはエルヴェツィア大陸の北方で領土を主張し、スカーディナ王国を築いた。

 カムチャツカとアラスカの狭間で、エルフたちの動向に世界の注目が集まった。


 だが、エルフたちは心を開かなかった。

 冷戦中、スカーディナ王国は太平洋安全保障(ANZUS)条約にもワルシャワ条約機構(WTO)にも加盟せず、中立を保った。


 彼らは身を護ることによってではなく、周囲を見捨てることによって平和を得たのだ。

 中立主義エルフィッシュ・バランスに基づくかつての外交戦術と、血統によって内外に境界を引く態度から、エルフを快く思っていない者も多い。


「昔はハーフエルフに対する差別が酷かったと、父上から聞いた。ハーフエルフは生まれても幼いうちに殺されるとも。だが、私の両親はそうしなかった。エルフと人間の――魔族と人間の架け橋になるようにと、私を育ててくれた。私は両親の願いを叶えたい。観光案内のような小さなことでも、皆の架け橋になりたいんだ」


「リーズ様は立派です。それにご両親も」


「父上はエルヴェツィア大陸が魔界にあった頃、聖堂騎士だったと言っていた。本当かどうかは分からないが。母上は東ドイツからの移民で、ベルリンの壁を上ってうまく逃げ延び、エルヴェツィア共和国に来た。子供の頃はよく知らなかったが、ベルリンの壁が崩壊した時に母が喜んでいたのを覚えている」


 リーズ様はそこまで話すと、ふっと息を吐いた。


「2人は旅行先で偶然、同じレストランに入った。その後も同じ噴水で出会い、連絡先を交換した。そしたら、住まいは近所だと分かった。そして、そのまま付き合ったと聞いている」


「運命ですね」


「かも知れないな」


 リーズ様の濃紺の瞳が私を見つめた。

 私もリーズ様を見つめ返した。


 私たちの出会いもまた運命なのだ。

 リーズ様もきっと気付いてくれる。


 私はリーズ様の手を握ったまま、眠りについた。

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