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吸血鬼さんのおもてなし ~ 旅と歴史とダンジョンと  作者: ミュスター観光騎士団
始まり
3/103

3. 吸血鬼、少し強気になる

 私はリーズ様とエメットを館の客間へと案内した。

 吸血鬼たるもの、たとえ起き抜けであっても、客人に対する礼儀は欠かさないようにしなければ。


「どうぞ。あいにく何もお出しできませんが……」


「ありがとう」


 客間ではアンティークの調度品は壊れ、革張りの椅子も虫食いだらけになっていた。

 とても客を迎えられる状態ではない。


「あちこち傷んでますね、この館。折角リーズさんも呼んだのに、なんだか損な買い物だったかも」


 まるで館を自分の物のように言うところが引っかかるが、エメットの言葉通りだ。

 私の強大な権勢を誇示していたはずの館は、今や廃墟同然だった。


 それでもエメットは辛うじて残っていた座卓に腰掛けた。

 背の低い座卓でも、エメットの身長には丁度良い高さだった。


 淡い亜麻色の髪を片方だけ三つ編みにした髪型、エメラルドのような緑の瞳、そしてリーズ様の腰丈ほどの小柄な体躯。

 私の知る限り、エメットはノームだ。


 地の精霊とも言われるノームは小柄で力が弱い代わりに器用で目敏い。

 目の前にいるエメットはまさにノームの見本だった。


「お座りいただく椅子もご用意できず、申し訳ありません」


「勝手に押し入ったのは私たちのほうだ。そんなに気を使うな」


 お優しい言葉を賜り、私は心の中で嬉し涙を流した。

 彼女の慈悲にすっかり心を打たれている。


 私は長らく孤独だけを友人としていた。

 それが原因だろう。

 自分で考えているよりも強く、他者からの無償の愛に飢えていたのだ。


「リーズ様」


「どうした」


「どうして私にこんな良くしてくださるのですか」


「困っている者がいたら助けるように母に言われてな。それに、誰かを助けるのは聖堂騎士たる者の務めだ」


 騎士。

 微妙に古臭い響きだ。


「ありがとうございます。リーズ様のおかげで、私……」


 私は戦慄(わなな)きながらリーズ様にしなだれかかった。


「急にどうした。まだ血が足りなかったのか」


「違います。リーズ様を想うと、胸が苦しくて……」


「気胸か」


「吸血鬼は病気しません」


「そうなのか」


「貴方への熱い想いで、胸が苦しいのです」


「いや、やはり病気なのでは」


 リーズ様は眉をひそめた。


「リーズさん、鈍感ですね。彼女、恋患いですよ」


 エメットがケラケラと笑った。


「それはやはり病気じゃないか。横になっていたほうがいい」


 違う。

 エメットはリーズ様を変な方向に誘導しないでほしい。


「そういえば、君は私を血の主とかいうのに選んだようだが……私は何をすればいい」


 リーズ様はまだ戸惑いを隠しきれない様子だ。


「私は貴方に忠誠を誓いました。平和の訪れた今の魔界で、私のような殺戮だけが取り柄の魔族にできることは、ただ誰かに仕えることだけ。ですから、リーズ様はただ命じてくださればいいのです」


「そう言われてもな……」


「これは騎士の恋、手の届かぬ者に命を捧げる覚悟なのです」


「騎士、か」


 騎士という単語にリーズ様の口元が緩んだ。

 いいぞ私。このまま押し切れ。


「そうです。私は貴方の騎士。リーズ様も騎士ならば、私の騎士としての覚悟と忠誠を信じてください」


 かつて騎士は主君の妻君に恋をした。

 叶わぬ恋であっても、忠誠という形で想いを示したのである。


「君がそこまで言うなら、誓いを受け入れよう。だが、危ないことはしないでくれ」


 どうやら私の恋心はリーズ様に通じるのに十分ではなかったらしい。

 他者と気の置けない付き合いをしてこなかったツケが回ってきてしまった。


 しかし、吸血鬼もエルフも一緒にいられる時間はたっぷりある。

 これから徐々に私の気持ちを伝えていけばよいだろう。


「それがリーズ様のご指示であるのならば、私は従います」


「また鼻血が出てる」


「すいません。ちょっと興奮してしまったみたいで」


「やはり病気なのでは」


 私を訝しげに見るリーズ様の視線もまた魅力的だった。

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