20. 最終確認
翌日、私たちは私たちの、私たちがつくった観光案内所に向かった。
開業前日の最終チェックをする予定だった。
場所は集落の広場に近い、自動車整備工場の空き倉庫だった。
バスの停留所からも近く、立地自体は非常に良い。
観光客が一息つけるようにテラス席まで設けてあり、外観も完璧だ。
しかし、改装した今でも、鋼とオイルの匂いが漂っているような気がする。
「よし、案内板も設置した。マガジンラックにパンフレットも置いた。観光客用の無料Wi-Fiも開通した。観光局公認の証書も印刷して掲示してある」
リーズ様が一つ一つ念入りに案内所の設備をチェックしていく。
「それと、寄付を募る募金箱も大丈夫ですね!」
エメットが10ヶ国語で説明の書かれた募金箱を掲げた。
恐らくエメットは募金箱の中身にしか興味が無い。
「だいたいこれで良いな」
「でも、なんだか殺風景じゃないですか?」
「殺風景、か」
確かに、必要最低限の設備は整えたものの、本当にただそれだけだった。
観葉植物が置いてあるとか、地元のお土産を売っているとか、そういう"らしさ"が不足している。
「お土産は追々、用意するとして、他に何か置きましょうか」
「そうだ。あれを置こう」
リーズ様はバックヤードに入っていった。
そして、怪しげな模様が描かれたペナントを広げて持ってきた。
「何ですか。それ」
「私たちミュスター観光騎士団の紋章だ」
ペナントには、湾曲した角を持ち、猛禽類のような黒い翼を持つ悪魔のデフォルメされた横姿が描かれている。
子供が見たら泣く。
「なんでこの紋章にしたんですか」
「グリシュン州は人間に迫害された悪魔が逃げてきた土地だと聞いた。だから、ぴったりの紋章だと思ってな」
リーズ様は得意気な顔でペナントを壁に張り出した。
案内カウンターの後ろから、悪魔がこちらを睥睨している。
「えっと、あと、こう、明るくなるようなものも置きたいですね。あはは……」
私の口からは乾いた笑いしか出てこなかった。
一気にカルト宗教団体の色が出てきてしまった。
「それなら、こういうのはどうですか?」
エメットもバックヤードから何か持ち出してくる。
それを観光客用の待合いスペースにあるテーブルにごとりと置く。
人間の頭蓋骨を象ったランプだった。
眼窩から赤色の光が放たれている。
「いや、絶対にやめてください」
「逆らったらどうなるか分かりやすくて良くないですか?」
「良くないです」
人間の観光客が見たら不審がるだろう。
私はすぐに頭蓋骨を片付けさせた。
その後、近所のスーパーマーケットに行き、長持ちしそうな植物と鉢植えを買った。
エメットは食虫植物を欲しがったが、私はスルーを決め込んだ。
かくしてミュスター観光騎士団の観光案内所の準備は整ったのだった。




