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吸血鬼さんのおもてなし ~ 旅と歴史とダンジョンと  作者: ミュスター観光騎士団
グリシュン州の秘境ミュスター郡
18/103

18. NPO法人ミュスター観光騎士団

 その後、ミュスター観光騎士団はNPO法人として改めて創立された。

 発起人、桜木リーズ。会員、三ツ沢エメット、高島ルビー。以上。


 NPOであるから、もちろん利益は分配されない。

 剰余金はすべて観光案内という事業のために据え置かれる。


 リーズ様は給与を出すと言っているが、収益は寄付金頼りなので、どの程度の額になるかは誰にも想像がつかない。

 そもそも、申請手数料や弁護士への書類作成の依頼料だけで大赤字だった。


 それに、NPOだからといって免税されるわけでもない。

 提出した収支計画書では黒字の予定だが、とにかく頑張って働いてみるしかなかった。


 法人化と平行して観光案内所の登録に必要な書類が準備された。

 集落の中に案内所として使う部屋を借り、案内板やパンフレットも準備する。


 私の館には電話とネット回線が引かれ、一時的な事務所として扱われることになった。

 念願のネット回線が開通したおかげで、私はいつでも文明の利器を活用できる環境を得た。


 吸血鬼は昼間にずっと寝ていると思われているが、それは俗信である。

 吸血鬼は寝る必要がない。


 生ける屍なのだから呼吸も体温も病気も無い。

 吸血鬼は人間のような生理現象とはほぼ無縁であり、従って排便もしない。


 だから四六時中、ずっとオンラインゲームをプレイできる。

 無課金ユーザにとっては時間こそが最大の武器なのだ。


 しかし、遊んでばかりはいられなかった。

 リーズ様の下命に従って、観光ガイドとしての仕事も全うしなければならない。


 先立つ資金が無いので、設備の殆どが手作りだった。

 吸血鬼が鉢巻を巻いて大工仕事をしている姿を見たら、魔族の誰もが指をさして笑うだろう。


 出来上がったホームページは日本の俳優"阿部寛史"のホームページと同じくらい、表示までの時間がスムーズだった。どんと来い。

 誰もデザイン技術が無かったので、人間の言語で書かれた観光客向けのパンフレットはグリシュン州の観光協会から購入した。


 作業しているうちに、私とリーズ様、そしてエメットは自分たちが何をしているのか分からなくなりつつあった。

 観光案内ってこんなに大変なものなのか。


 1ヶ月かけて準備を整え、私たちは観光局に申請を出した。

 審査結果が出たのは2ヶ月後だった。


 館の裏手にある山麓の雪も溶けきる晩夏の折、ようやく観光局からメールが届いた。

 メールには登録された観光案内所に配布される、専用ページへアクセスするためのIDとパスワードが記されていた。


「うわあああ!」


「やったーーー!」


「やったったーーー!」


 私たちは歓喜の雄叫びをあげた。

 ミュスター観光騎士団は、名実ともに観光案内団体になった。


「でもこれ、7等級って書いてありますよ」


「まさか、観光ガイドも冒険者ギルドのようなランクが……?」


 昔の冒険者ギルドは街の酒場で(たむろ)している奴らが、勝手に名乗り始めたのが最初だった。

 文字も読めないゴロツキが日銭を稼ぐのに、酒場という場所はちょうど良かったのだろう。


 冒険者ギルドは職人組合とは違い、徒弟制度や親方試験は存在しない。

 単に依頼を上手くこなした奴が偉そうにできるように、ランクを設けただけだ。


 観光局も似たような方針なのだろう。

 上手く観光案内ができており、評判の良い観光案内所にはお墨付きを与える。


 その結果、良いノウハウが共有されたり、競争原理で観光案内の質が向上したりする。

 システムとしてはまずまずだ。


「7等級の観光ガイド。物凄く弱そうですね!」


 しかし、めげてはいられない。

 私たちの本当の戦いはこれからだった。


 今は観光案内を行う前処理が完了しただけなのだ。

 これからじゃんじゃんばんばん観光案内しなければならない。


 いずれ全国規模に事業を展開するという夢を語り合い、その夜、私たちは浴びるように酒を呑んだ。

 火酒、ワイン、ビール、蜜酒の瓶を次々に空け、狂ったように歌を歌った。

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