15. ダンジョンクリーナー
私たちは大蝙蝠の生息場所を探して彷徨っていた。
どこかに食べ残した虫型の魔物や糞の痕跡が残っていると思ったのだが、当てが外れた。
「俺の勘だが、さっきから同じような場所を歩いていないかい?」
「すいません。大蝙蝠の痕跡がなかなか見つからないもので……」
痕跡がなければ、痕跡の近くに現れる魔物を探すしかない。
痕跡を見つけると、勝手に痕跡を消していく魔物がいるのだ。
ダンジョンは血脂で汚れても勝手に綺麗になる。
理由は2つ。
1つ、ダンジョン自体にそうした機能があるケース。
自然界と同じように微生物が死体を分解し、土や水源に帰す。
1つ、ダンジョンクリーナーが汚損箇所を修復するケース。
ダンジョンクリーナーは汚れを清掃し、壁や階段の破損を修繕する。
ダンジョンが生まれると同時に産み落とされるとか、ダンジョンが成長する時に生じる副産物とか。
噂は多いが、ダンジョンクリーナーが誕生する方法は分かっていない。
ダンジョンクリーナーは召喚にも応じないし、隷属させることもできない。
運良く出会えても何かの役に立つことは滅多にない魔物だ。
今回はダンジョンクリーナーの習性を利用する。
大蝙蝠の痕跡を探して移動する彼らを追跡するのだ。
「ダンジョンクリーナーはそんな簡単に見つかるものなのか?」
「ダンジョンクリーナーはどんなダンジョンにもいます。それに、侵入者が少なくて他に掃除するものがないから大蝙蝠の傍に向かうはず。ここは洞窟系の階層ですから、岩とかに擬態しているかも」
「動く岩でも探せってか?」
その時、私たちの前で篝火の台座がガタガタと音を立てて揺れ動いた。
「なんだ!?」
カウボーイが拳銃を構える。
「待ってください」
台座はその場でひっくり返り、そして3本だった脚が6つに割れた。
脚が折れ曲がって地表に達すると、台座は立ち上がった。
まるで蜘蛛――いや、蜘蛛型のダンジョンクリーナーだ。
篝火部分から火花を散らして前方を照らしながら、篝火の蜘蛛は歩き始めた。
「何なんだ、あれは……」
「ダンジョンクリーナーですよ。追いましょう」
ダンジョンクリーナーは長い脚を器用に動かしながら一目散に走っていく。
そして、水場に近いフロアで動きが緩やかになった。
「なんか赤黒いものが落ちてるな」
床を見ると、そこかしこに大蝙蝠が落とした粘着質の糞が落ちている。
この近くに大蝙蝠がいることは間違いない。
「ウルリカさん、灯りを」
「【EROAD】」
ウルリカの錫杖から眩い光が放たれ、ゆっくりと天井へ登っていく。
灯りが天井に近づいた時、黒板を引っかくような鳴き声が響き渡った。
顔を上げると、天井には隙間なくびっしりと大蝙蝠がぶら下がっていた。




