14. 死の罠
回復魔法の強化と死の軽減、そして隠された財宝と謎。
今はまさに空前のダンジョン・ブームに沸いている。
地球上では回復魔法は著しく弱まり、簡単には蘇生できなくなった。
だが、ダンジョン内部は例外だ。
死んだとしても蘇生できるというのは、儲けものだと誰もが思っている。
しかし、ダンジョン内で回復魔法の効果が強まり、蘇生ができる理由は分かっていない。
死のリスクを軽くすることで、ダンジョン内へと誘い込む何者かの罠なのではないか。
そのように考える者もいる。
放棄されたダンジョンで誰がそのような罠を仕掛けるのか。
いるとしても、そんな高度な魔法をどうやって使いこなしているのか。謎だ。
地球の磁場とエルヴェツィア大陸の魔力との相互作用でダンジョンが変質したという説も唱えられている。
調査が捗らないということも手伝って、ダンジョンの研究は確立されていない。
「早く蘇生を!」
「は、はい」
ウルリカがエメットだった肉体に蘇生魔法をかける。
流れていた血が体内へ戻っていき、傷が塞がっていく。
最初の死因は狭い廊下で左右に振れるギロチンだった。
火炎放射の罠を止めるためスイッチを切って、戻ってくる途中に仕掛けられていた罠にかかり、ノームの身体はエメットAとエメットBに分裂した。
「ぶっはぁっ!」
死から蘇ったエメットが嗚咽を漏らす。
その様子をカウボーイは青褪めた顔で見ている。
「何なんですか、このダンジョンは! "スーパーマリモメーカー"のクリア率0.01%のコースみたいになってるじゃないですか!」
"スーパーマリモメーカー"はキノコの魔物、マタンゴである"マリモ"たちを操作して遊ぶアクションゲームだ。
自作のコースを作ってオンライン上を公開し、皆で遊ぶことができる。
「造った奴の気が知れないな……」
その造った奴が目の前にいるのだが。
昔のミュスターは誰も来ない場所だったから適当に造ったため、完全に難易度のバランスが崩壊している。
それでもなんとか前に進み、階段を下る。
天井の高い、鍾乳洞のような岩肌が露出したエリアに出た。
「ここは大蝙蝠がいるはずです」
「やけに詳しいな」
「む、昔このダンジョンに入ったことがあるんですよ」
「それは頼もしい」
「そういえば、ダンジョンのサバイバル飯で、大蝙蝠を調理するってのがあったらしいが、本当かい?」
カウボーイが私に尋ねる。
「串焼きとか粥とかで食べますね。滋養強壮の作用があるので、強大な魔物に挑む前に食べる習慣があったそうです」
見た目はともかく肉は不味くない。
大蝙蝠を捕らえるために、ブーメランやスリングショットといった投擲武器をわざわざ装備する連中もいたくらいだ。
しかし、大蝙蝠がいるということは、その餌となる魔物もいるということでもある。
このダンジョンではフクロウ熊が潜んでいる。
熊に襲われたらひとたまりもない。
我ながら迷惑な造りだ。
「後学のために食べてみたい。そろそろ、ハンティングもしてみたくなってきたしな」
カウボーイが拳銃を手元でくるくると回した。
落としたら危ないからやめてほしい。
罠で死ぬのがエメットばかりだと分かり、カウボーイは少し余裕を取り戻しつつあった。
大蝙蝠を狩ったところで全部位を持ち帰る手段は無いので、その場で処理する必要がある。
武器防具の類を持っていない代わりに野外用の調理器具はエメットが持っていた。
ただ殺すよりも、相手の血肉を食するほうが良いだろう。
私たちは早速、大蝙蝠を探すことにした。




