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吸血鬼さんのおもてなし ~ 旅と歴史とダンジョンと  作者: ミュスター観光騎士団
世界遺産センフェス・イオシフ教会のダンジョン
11/103

11. ウルリカ

 教会の奥。

 主教の待合室の前まで来て、リーズ様は立ち止まった。


「ここなら、きっと良い仕事を紹介してくれるはずだ」


「優しいですからね! ウルリカさんは!」


 ウルリカというのが、これから会う尼僧の名前らしい。

 リーズ様は扉をノックした。


「ウルリカ、いるか」


 リーズ様の声に応えるように扉が静かに開かれた。

 扉の先には、装飾の無い簡素なサークレットを被り、ゆったりとした裾の主教の長衣を着た女性が立っていた。


 人間そっくりの見た目。褐色の肌に、澄んだ金色(こんじき)の瞳。

 そして、輝く銀髪が肩のあたりにかかっている。


 華奢な体つきの割りに、胸ばかり肉付きが良さそうだった。

 聖職者でありながら男の視線を集めてしまい、苦労していることだろう。


「あら、皆さんお揃いで。どうぞ、お入りになって」


 尼僧に案内され、待合室に置かれた丸椅子に座る。

 待合室には芳しい香の香りが漂っていた。


「初めての方ね。こんにちは。私はウルリカ・ハイゼンベルクと申します」


 私に向き直って、ウルリカは頭を下げた。

 見た目は人間に等しいが、そこはかとなく獣の匂いが染み付いていることに私は気付いた。


 彼女は狼人(ライカンスロープ)だ。

 月夜に獣へと身体を変じ、鋭い爪と牙で獲物を襲う。


「こちらは近所に住んでる無職の高島ルビーさん。今、仕事を探してるんですよ」


 一言余計な情報を付け加えて、エメットが私をウルリカに紹介する。

 やはり、こいつはいずれこの手で殺す。


「それでこちらに?」


「手頃な仕事ってないですかね。ルビーさんは吸血鬼なので、できることは限られているとは思うんですが」


「吸血鬼ですって。私、初めてお会いしたわ」


 ウルリカが嬉しそうに私をまじまじと見つめる。


「吸血鬼なら、長く生きてこられたのでしょう」


「えぇ、まぁ、200年ほど」


「それなら半世紀以上前、地球に来る前の魔界のこともよくご存知ですよね」


 確かに私はありし日の魔界についてよく知っていた。

 今も頭の中に、人間たちを殺した時代の記憶がありありと浮かび上がる。


「街や自然の中の遺構――そして各地のダンジョン」


 ウルリカが目を細めた。


「一応、だいたいは分かりますけど」


「素晴らしいです。この仕事にうってつけですね」


「それはどういう意味ですか」


「エルヴェツィア大陸が転移し、紛争で多くの魂が失われました。かつての時代を知る者も少なくなってしまったのです」


 ウルリカは私の手を取った。


「魔族と魔界、その由来と歴史を知る人が求められています。ルビーさん、どうか力をお貸しください」


「それは具体的にはどういった形で」


「ずばり、観光ガイドです」


 その言葉を聞いて、リーズ様とエメットは目を輝かせていた。

 まさかこれを待っていたのか。

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