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吸血鬼さんのおもてなし ~ 旅と歴史とダンジョンと  作者: ミュスター観光騎士団
始まり
1/103

1. 吸血鬼、起きる

 一筋の細い光が、棺の中で横たわる私の胸元に差し込んでくる。

 棺の蓋を開き、私の長きに渡る眠りを妨げる者は誰なのか。


 私は哀れな獲物の顔をよく見てやろうと思い、少し頭をもたげた。

 棺の蓋がゆっくりと開かれていく。


「思ったより重たいな。これ以上開けるのは難しい」


 外から女の声が聞こえる。

 蓋を開けるのに難儀しているようだ。


「それじゃ、放置しちゃっていいんじゃないですか?」


 別の方向から、間の抜けた鵞鳥のような女声も聞こえた。

 一体、外で何が起きているのだろう。


「そうだな。他に調べる場所もあるし」


 え? 何? ここまで開いて止めるの?


 私は慌てて目を見開いた。

 こんな中途半端な形で置き去りにされるのは困る。


 私は力を振り絞って蓋を横にずらした。

 重たすぎて手が引きちぎれそうだった。


「勝手に開き始めたぞ」


 積もり積もった埃を撒き散らして、蓋は外れた。


「きゃー! 蝙蝠ですよ! 蝙蝠!」


 棺の中に隠れていた吸血蝙蝠たちが外の世界へ羽ばたいていく。

 私も蝙蝠に続いて棺の外へと飛び出した。


 私の出現に驚いた侵入者の手から光を放つ筒が転がり落ちる。

 かつて床を覆っていた豪奢な敷物は朽ち果て、床は大理石が剥き出しになっていた。


 それでも、館は往時のままの姿を留めていた。

 汚れた燭台、血で黒ずんだ壁、邪悪な魔物を象った彫像。


 私は漆黒のドレスをはためかせ、慣れ親しんだ呪われし館に舞い降りた。

 さあ、恐れ慄くがいい!


 と、思ったのだが――


 しかし、最初の一歩を踏み出した途端に私は前のめりに倒れた。

 そのまま俯せになって薄汚い床に口づけする。


 あまりにも無様な登場だった。

 頭が朦朧として起き上がれない。


 完全に貧血状態である。

 吸血鬼であるこの身にとって最悪の状況。


 今すぐ血を飲まなければ動けない。

 誰でもいい、血を。


「大丈夫か」


 棺の前に立っていた女性が私を助け起こした。

 その時、私は侵入者の顔を間近で目にした。


 目鼻立ちの整った、凛々しい顔。

 サファイアのような濃紺の瞳。

 柔らかく流れるような金髪のポニーテール。


「貴方は……」


 私は彼女を一目見て、萎びた身体に再び力が漲るのを感じた。

 鼓動を忘れていた心臓が加速していく。


 こんな感覚、今まで感じたことはなかった。

 獲物を殺めている時とも、その血を浴びている時とも違う。


 それはつまり、一目惚れだった。

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