僕のお姉ちゃんはインド人が好き!!
ボーリングが出来そうなくらいに所狭しと並んだビールの空き缶達を見て、僕は溜息一つを漏らした。
「それでね、バイト先のインド人店長が滅茶苦茶格好良くてね―――」
これで三十分ぶり通算4度目のインド人トーク。耳にタコさんウインナーが出来そうだ。
「はいはい、料理も上手くて何か知らないけど格好良くて、とりあえず結婚したいんでしょ?」
「……アンタ良く知ってるわね?」
何度も同じ聞かせられたら、誰だって覚えるよ……。
「それでね、バイト先のインド人が滅茶苦茶格好良くてね―――」
「…………(泣)」
「私に極上のスパイスをかけて~! って感じでね―――ああっ! 店長のガネーシャが私の中に! とかね(笑)―――あ~……店長と結婚してー……」
ここまで御執心だったとは……一度姉ちゃんのバイト先に冷やかしで食べに行ったことはあるけれど、確かに料理は美味しかった。それでも姉ちゃんがインド人店長と付き合うのは些か不安だ……。
「……あ、ツマミが無くなったわ。アンタ買ってきなさい! あれよ、ウニ入りの塩辛よ! 分かってるわね!?」
「へーい……」
僕は自宅から自転車で三分のところにあるスーパー『ヤケクソ』へとやって来た。ここは夜になるとヤケクソレベルの値下げを行うことで有名だ。
ヤケクソシールと呼ばれる店長の怒り顔のシールが貼られると、300円の唐揚げも5円まで下がる。その代わりヤケクソ品を買うならば、100円以上のヤケクソ品以外を二品買わなくてはいけないルールとなっている。それでも十分に安いからありがたい。
(あ! ウニ入りの塩辛がヤケクソ品になっているぞ!!)
通常1250円のウニ入り塩辛が100円になっているのを見て、僕は思わず買いものカゴへと放り込んだ。そして適当なドレッシングとサラダをカゴへと入れた。
「アレ? アヤカさんのオトウトさんではナイデスカァ?」
僕は横から声を掛けられ思わず驚いた。そして声の主に顔を向けると、姉ちゃんのバイト先の長い店長がそこにはいた。
「あ、どうも……」
「アヤカさんにはトテモトテモお世話にナッテマス! アンナ素敵なヤマトナデシコはニホンでハジメテデース!」
……酒を空気のように吸い込みガネーシャがどうこう言う姉ちゃんが大和撫子の筈は無いんだがなぁ。何かの間違いではなかろうか……。
「オカゲサマで二店舗目もダセソウデース! これで祖国に残してきたヨメサンと子どもをこっちにヨベマスネ!」
……うわぁ。インド人店長妻子持ちじゃん! 姉ちゃん下調べ位はしようよ!?
僕は適当に会話を済ませ会計をした後、家へと戻る。自転車を降りたらウニ入り塩辛に貼られたヤケクソシールを綺麗に剥がし、サラダに貼った。
「おかぇりぃぃぃぃぃ!」
ベロンベロンのグデングデンに酔っ払った姉ちゃんにウニ入り塩辛とサラダを渡した。
「お、気が利いてるねぇぇぇぇぇ」
姉ちゃんは財布から二千円を取り出すと机の上へと置いた。
「足りるぅぅぅぅぅ?」
「あ、うん」
これだから姉ちゃんのパシリは止められないんだ。ボロ儲けにも程がある。僕は二千円をポケットへと入れるとサラダの蓋を開けた。そしてこっそりと剥がしたヤケクソシールを、気付かれない様に姉ちゃんの背中へと貼った。
(姉ちゃんはヤケクソ品でも誰も貰ってくれなさそうだな……)
ウニ入り塩辛を頬ばりながらビールを飲む姉を見て、僕はしばしばそう感じた。
読んで頂きましてありがとうございました!
相変わらずお題処理が酷い(笑)