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アカムは金色の仏像の先端に立っている。眼下には、朱い太陽が作り出す一大景観が広がる。
東に楽山市があり、北東にも小さな街が見える。西方すぐそこのもう1つの頂に小さな塔が建つ。その向こうは焼けた雲の大海原だ。稜線に沿って力が揺らめき、山全体に生き物のような存在感がある。峨眉山は明らかに特別な山だ。
この近くに、アカムが求めるものがあるはずだった。それは、うりを救うもので、アカムの中の力と関係があるものだ。そして、あの中国人と縁がある。
それらのイメージを腹の底に落とす。呼吸を整える。眉間に圧迫感が生まれて下腹が熱くなる。瞳孔が内側をむいて痙攣をはじめる。心象が沸き上がってくる――。
足下の山頂に金の建物がない。人もいない。低木に埋もれる小さな社があるだけだ。たなびく雲が高空の風速をあらわし、雲海が神仏の場と俗世を隔てる。立ち昇る霊力が四界を圧し、五感のほかに、もう1つ感覚があることを知らせる。
岩の上でひとり、どこか見覚えのある人影が座禅を組んでいる。
うり――。
世界がその人物に集中し、渦を巻いて吸い込まれていく。時間も、空間も、命も、感情も、すべてを包み、地の底の見知らぬ大空洞へと導く。
アカムは半眼に目を開いた。雲海の中に2本、光の柱が見える。ひとつは北方、鈍く深く。ひとつは北西、清らかに。
(どっちだ?)
光に目を凝らす。自分が染み出し、光の柱に触れる。
(……呼んでいる……静かに……待っている……世界の……終わりを……)




