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アカムとうり 悪の魔王ともうすぐ死ぬ子  作者: 佐藤いふみ
         5節 峨眉山幻想
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 前方、遙かに霞む雲間に、への字の山陰が見えてきた。少女の眉に似た姿から峨眉山と名付いたという、あれが目指す霊峰だろう。


 アカムは空中で静止して携帯端末を確認した。地図アプリがGPS情報からアカムの位置と向きを表示する。たしかに、あの山が目的地だ。


 手前右側に広がる市街は楽山市というらしい。窓が目立つ赤茶色の高層建築が赤く煙る空に伸びている。朱い煉瓦が茶色い河岸をかため、反り返った伝統的な朱瓦屋根の水門が建つ。河には花弁の形をした中州があり、その横を観光船が下っていく。オレンジのジャケットを着た観光客で、船の展望台は満員だ。観光船は、アカムのうしろの巨大な岩壁を目指している。トマトを練り込んだシフォンケーキを抹茶でデコレートしたような、特徴的な崖だ。


「あれは……あー、楽山大仏」


 ネットの情報によれば、周囲の崖に掘られた建造物の全高が約71メートル、像が約60メートルで、東大寺の大仏の5倍もあるそうだ。1200年前に作られたらしい。 近代以前に建造された仏像では世界最大だという。


 なかば緑に覆われて座す久遠を内包した人型に、アカムはしばし見入った。正面にまわって尊顔を拝謁する。赤岩の中で顔だけが白い。顔に凹凸はなく、アーチ状の眉の下の半眼は静かで、口元は微笑んで見える。




 大きな目を弓形にして、うりが笑った。赤壁と大仏が溶け去り、風の音が消え、白い空が四方を包む。熱い胸が、糸で吊られて天に昇る。




 遠いざわめきで、アカムは我に返った。


 大仏の足下にひしめく観光客がアカムを指さしている。左崖のつづら折りの階段にも、びっしりと人がいて、携帯端末やカメラを向けている。


「行くか」


 呟いて、アカムは飛翔した。暮雲を突き抜けると、朱い雲海の中に黄金の社殿が建つ山頂が見えた。

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