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アカムとうり 悪の魔王ともうすぐ死ぬ子  作者: 佐藤いふみ
         4節 アカムの奔走
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 アカムは廊下で電話を終え、応接室にもどろうと扉をあけた。すると、アメリアが出てきて、アカムの体を押し返した。アカムの手を引き、廊下の奥へ進む。


「なんだよ、まだ文句があるのか」


「よく聞いて」


「英語じゃ分からない。槇則を呼べ」


「いいから、ここに触って」


 つきあたりで、アメリアはアカムの手を取って、自分の下腹に押しつけた。


「――どう?」


「なにすんだよ、口説いてんのか?」


「ふざけないで。私の言ってることがわかるかって聞いてるの」


「だから、英語だと深いところまでは――あれ?」


 不思議なことに、まるで日本語を聞いているように意味が入ってくる。


「なんだこれ。これも、あんたの能力か?」


 アカムは日本語で返したが、意味が通じているという、たしかな感触がある。


「私の漢方の先生が教えてくれたの。先生とも、こうやって話したわ」


「意味だけをやり取りできるのか」


「聞いて」


 アメリアが顔を近づけた。鼻が触れそうだ。


「あなたが、いくら力を送っても、袴田さんは治らない」


「わかってるよ! でも少しでも――」


「本当にわかってる? 袴田さんの病は、あなたの力と似てると思わない? あの嵐を、あなただって見てるでしょう?」


「でも近づけなかったんだ。だから、あんたに頼んで――」


「あなたの中にも恐ろしいモノがあるわ。ひとつ――いえ、ふたつ? とにかく、私の話を聞いて」


 青い瞳がアカムの黒瞳を真っ直ぐに見る。


「袴田さんのために、あなたにだけ、できることがあるわ」


「なんだ? なにをすればいい?」


 アメリアはアメリカ人らしく、大げさな表情で失望をあらわした。


「ファック! どうして私にわかるのよ。考えなさい」


「ファックファックいわれても……俺にできること――俺に? ……思いつかない」


「ああもう、ノロマな男ね! もっと真剣に、もっと潜って。あなたの中にいるモノに聞いて。目を閉じて、早く! 手伝って上げるから」


 白く細い指がアカムの目を塞いだ。香水と体臭が香る。日本人の女とは匂いがちがう。アメリアの下腹に当てた手が熱くなる。アカムは目をとじた。




 アメリアと飛んだ宇宙にアカムはいた。


 床に倒れているうり。


 うりと飛んだ宇宙。


 風呂場での優しい感触。


 排水溝に吸い込まれる赤い渦巻き。


 破裂する肉の袋。


 黒く粘つく激情と獣の――。




 突然、幻視が消えた。悲鳴を上げてアメリアが飛びのく。どくり、と、心臓が打つ。あの中国人の顔が鼻先にあらわれる。


「峨眉山……」と、男が言った。


 アカムは目を開けた。白い壁。左右に伸びる廊下。床にアメリアがうずくまって、肩を抱いて震えている。


「峨眉山――そこにあるんだな」


 アカムが手を差し出すと、アメリアは後ずさった。涎が糸を引いて床に垂れている。


「ありがとう」


 英語で言って、アカムは応接室に向かった。出発の準備をしなければならない。

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