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アカムとうり 悪の魔王ともうすぐ死ぬ子  作者: 佐藤いふみ
         4節 アカムの奔走
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79

 手術室にアメリア・リードが入って来た。美しい金髪を手術帽にたくし込み、顔の下半分をマスクで覆っている。そのせいか、深い湖のようなブルーの目が、いつもより印象的だ。


(まるでティーンエイジャーのようだ)と、タク・ブラウンは思った。 


 普段のアメリアは30代に見えるが、タクは先日、アメリアの50歳の誕生日を、みんなと祝ったばかりだ。


 しなやかな長身が、タクの横をすぎて患者の上方にまわった。患者は白くはっきりした光に照らされ、緑の重苦しいカバーにすっぽりと包まれており、剃髪した頭頂部だけが見える。


「はじめるよ、オーケー?」


 アメリアが言った。


「イエス」


 タクはうなずき、ワゴンを引き寄せた。ワゴンには、メス、電動ドリル、そして専用のノコギリが乗っている。


 緊張で右瞼が痙攣する。興奮を抑えようと、タクは自分に語りかけた。


(落ち着け。天才の技を間近で見られるんだ。盗めるものは、すべて盗んでやる)


 アメリアは右手の人差し指と中指を揃えて、患者の頭をなぞりはじめた。直接、触れてはいない。不思議な行為だった。


 普通、慢性硬膜下血腫は、ドリルでの穿頭で処理するが、この患者は、すでに同様の手術を2回受けている。頭を開けても血腫が見つからないのだ。血腫が移動する特殊な症例だった。


「うん、ここね」


 アメリアが右側頭部の一カ所に触れて、言った。


(――え?)


 タクは思わず出そうになった声を慌てて飲み込んだ。


(事前にCTスキャンで特定した患部とちがうぞ)


 アメリアは、さっき押さえたあたりを、もう一度、金属探知機で宝を探るように2本指でなぞっている。


「うん、やっぱりここ――メス」


 アメリアが左手を差し出す。タクはメスを渡した。ほんの少し、皮膚を切る。タクは脱脂綿を用意していたが、出血はない。偶然、血管を避けたのだろう。


「ドリル」


 すかさず、電動ドリルを渡す。アメリアは、こちらを向いて怪訝そうな顔をした。


「手動ドリルを頂戴」


「え、でも、いまここにありません」


「じゃあ、取ってきて」


「でも、電動のほうが素早く正確で、患者の負担も……」


「あなた、助手を交代する?」


「……ソーリー」


 タクは機材棚に飛びつき、手動ドリルを探した。目の前にあった物を手に取ったが、看護師が横から手を出して奥の箱を取った。


「これを持って行って」と、看護師が言った。


 アメリア専用のドリルなのだろう。この看護師はベテランで、何度もアメリアの手術をサポートしている。


 アメリアはドリルを操作し、あっという間に頭蓋骨に穴を開けた。タクは、緊張して待った。頭蓋骨内部には太い血管がある。かなり出血するはずで、素早く止血する必要があるが――。血は一滴も出ない。これも偶然なのか?


「ドレーン」


 アメリアの指示に、タクの動きがまた止まる。


(硬膜下の血腫が移動しているのだから、面で見るために頭蓋骨を開ける予定だったはず。術前会議では――否、2ステップ目だと言ってたか。でも、それでも開頭はしなければ……)


「どいて」


 看護師がタクを押しのけてアメリアにドレーンを渡した。


「この先はシャーラが助手をして」と、アメリアが言った。


「イエス」


 看護師は誇らしげに答えた。

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