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アカムとうり 悪の魔王ともうすぐ死ぬ子  作者: 佐藤いふみ
         3節 空のデート
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 モデルの端境潔子を弄んだ1ヶ月後。散策を終えたアカムが最寄り駅から外に出ると、濃いスーツを着た男たちが待っていた。


「赤鉄アカムさんですね。私、端境組の若頭を勤めております、真北と申します」


 濃紺のスーツを着た短髪の男が腰をかがめて言った。銀縁眼鏡の奥から鋭い眼光がアカムを見上げる。


「端境組って、ヤクザ?」


「はい、おっしゃる通りです」


 アカムは、ちょっと考えてみたが、ヤクザから声をかけられる覚えは、いまのところないような気がする。


 動きを止めたアカムを見て、真北が言葉を継ぐ。


「組長の端境が折り入ってお話したいことがありまして、赤鉄アカム様をお連れするように申しつかって参りました」


「なんの用?」


「それは端境より直接お伝え致します。私はただの使いです」


「いいけど、今日はやめてよ。疲れてんだ」


 アカムは、ひらひらと手を振った。真北は歩き出したアカムの前に素早く回り込んで平身低頭した。


「次回といいますと、いつになりますでしょうか。あらためてお迎えに上がります」


「約束とか面倒だから」


「それでは私の面子が立ちません。どうかお願いできませんでしょうか」


 真北は食い下がった。取り巻き連中も真北にならって頭を下げる。


「しつこいなー。だから、疲れてるっていってるじゃん」


 アカムは真北の丸刈りの頭に手を置いた。激高、もしくは豹変を期待したアカムの予想を裏切って、真北はさらに一段頭を下げた。


「お約束が叶わないなら、どうぞ今からご同行願えませんでしょうか」


 絶対的な上下関係の中で培われた胆力と対応力なのだろう。アカムは、聞いてやってもいいかという気になってきた。


「お疲れということでしたら、車中でできる限りのことをさせて頂きます」


 真北が五指を揃えて示した先に、黒塗りの国産高級車が止まっていた。おそらく特注品だ。大型で、後部座席はさぞかしゆったりしていることだろう。


 後部ドアが開いて、すらりとした美女がふたり出てきた。黒いスーツを着た、まっすぐな黒髪の清楚な女だ。深々と礼をした胸元から豊かな膨らみがのぞく。


「マッサージもできるの?」


「両名とも資格を持っております」


 ふーん、と、アカムは考えるふりをした。


「組長さんがいる所まで、どのくらい?」


「30分ほどでございます」


「そんなに早く着いちゃうんだ」


「遠回りすることも可能でございます」


「じゃあ、そうしてもらおうかな」


 アカムが車に近づくと、女のひとりが腕を組んできた。もうひとりが逆の手を取って車内に導く。


 中は予想以上に広い。キャビネットが開いてテーブルになっており、瑞々しいフルーツが並んでいる。運転席との間はスモークの入ったプラスチックガラスで仕切られ、カーテンがついている。


 ドアが閉まった。スモークウィンドウ越しに、真北が部下に指示を出して助手席に乗り込むのが見えた。女がカーテンを閉めた。




 1時間半後、車は世田谷の住宅街を進んでいた。丹念なマッサージのあと、アカムは脱力してフルリクライニングしたシートに寝転がっていた。女ふたりは優しく体を触っている。


「失礼致します」


 控えめな音量で真北の声がした。どこかに仕込まれているスピーカーからだろう。


「あと15分で到着致しますので、ご準備願います」


 アカムはのそのそと起き上がり、女たちのサポートで服を着た。女たちはアカムが準備を終えてから自分の身支度をはじめた。


 ドアがノックされ、開いた。車がいつ止まったのか、アカムには分からなかった。


「お疲れ様でした。どうぞ、おいで下さい」


 女たちが外に出て、アカムの手を引く。


 眩しい日差しの中にどこまでも続く白い壁と、くるみ色の両開きの門が見えた。表札には「Hazakai」と飾り文字で書いてある。洒落た大邸宅は、ヤクザの本家というよりアパレルメーカーの社長宅だ。


「こちらでございます」


 真北の導きに従って門をくぐる。真北の部下と女たちは深々と頭を下げたまま、その場に残った。

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