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アカムとうり 悪の魔王ともうすぐ死ぬ子  作者: 佐藤いふみ
第2章 悪の魔王 1節 峨眉山の戦い
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 めくるめく光輝がハンオウ〈韓応〉の目を射た。吹き荒れる陰陽の気が嵐となって襲いくる。たまぎる赤子の悲鳴が心臓を握りつぶす。


(あの闇は、まさか陰気いんきか!? もう待てぬ!)


「そこにいろ!」


 ハンオウは忘我の年少の黒衣ヘイイーの肩をたたき、ジンイエ〈金夜〉に向けて走りだした。


 黄金色に光る珠が栗鼠からはなれ、闇を引いて上昇していく。ジンイエの陽神が、その幼い手を伸ばす。


「させぬ!」


 叫んで、ハンオウは距離なかばで地面を殴りつけた。陽気を乗せた拳が地をわり、大地を内側から吹きとばす。莫大な土砂が、巻きこまれた樹木とともにジンイエに降りそそぐ。数瞬おくれて、左右から金属音を響かせて鎖がはしった。残るふたりの黒衣ヘイイーだ。


 陽気をよく通す神鉄で作られた鎖は樹木をつらぬき、薙ぎ倒しながら、土砂煙に突き刺さった。


ハオ(よし)!」


 ハンオウは15メートルを一気に跳躍し、左に位置取った。


(ゆるせ、森の住人たちよ。すべては大地を守るため)


 心の中で謝罪し、ハンオウはふたたび地面に拳を突き刺した。



   ◆◆◆



 インチュアン〈銀川〉はいまだ動かず、下生えに低身している。黒衣ヘイイーたちが事前の指示を無視して独断で動いている。


(ハンオウの野郎、あれほど言ったのによ)


 2度目の爆発。樹々の倍ちかい高さまで巻き上がった土砂が、魚の群れのように向きをそろえてジンイエを飲みこむ。――刹那、土砂の動きが反転し、圧倒的な勢いで膨れあがった。


虚室生壁きょしつせいへきが、あまりに強靱だ。土砂煙の目隠しと神鉄鎖での捕縛など――)


「通用しねえよなあ――師姐シジェ!」



   ◆◆◆



 ハンオウは咄嗟に跳躍して、向かってきた太い幹をさけた。


 土砂の豪雨のなか、ジンイエの方向へ伸びる神鉄鎖に桜色の花が咲く。蛇が縄を這いのぼるように、鎖をもつ黒衣ヘイイーふたりにかがやく花弁が迫る。


「はなせ!」


 叫んだときには、花弁はふたりの全身を包んでいた。黒装束が裂け、月の光が白い肌を照らす。――そして、破裂。


「ウェン! シン!」


 五台山の里で、ともに修行に励んだ日々がよみがえる。


 ハンオウのすぐ横を影が駆けぬけた。


「スイル、やめろ!」


 年少の黒衣ヘイイーは走りながらシンの鎖をつかんで、自分の鎖とともにふりあげた。2本の鎖が柱のごとく天に立ち、土煙からあらわれたジンイエの頭上を襲う。


 年少の黒衣ヘイイーの体中に光の花が咲いた。両腕を振りあげた姿勢のまま、咲いた花の数だけ血線を引いて倒れる。両脇に、とぐろを巻いて鎖が落ちる。駆けよって受けとめたハンオウの腕に、血まみれの体が、ぐにゃりとまとわりついた。


「スイル――」


 答えはない。それどころか、その体には微かな命の余韻も残っていなかった。全身の経絡が完全に断たれている。


「なぜ、ここまでする――同胞だぞ!」


 激昂するハンオウの下半身を花弁の群が薙いだ。ハンオウは倒れ、年少の黒衣ヘイイーの死体も草地に落ちた。赤い視界の中で、ジンイエが右手をあげる。人差し指と親指が円を描く。


(――一矢を報いることさえ、できないのか)


 ハンオウが死を覚悟した、そのとき――。


「ジンイエェェェェェッ!」


 ジンイエの頭上にインチュアンが跳んだ。


 腰だめの右拳に放電の火花が散る。ジンイエが右手の小円を口にあて、インチュアンのほうを向いた。呼気が桃色の花嵐となる。

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