表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アカムとうり 悪の魔王ともうすぐ死ぬ子  作者: 佐藤いふみ
         2節 六本木ヒルズの戦い
62/116

61

 葵クリニックの看護師が、ブラッスリーの洒落たエントランスを眺めていると、正面から車椅子の男がやって来て傘と傘が触れた。看護師が会釈すると、男は看護師をなめるように見て、無言で行ってしまった。


(もう、だからピンクの白衣なんていやなのよ。だいたい、白衣なのにピンクっておかしいでしょ)


 ぶつぶつと不満を言いながら、葵クリニックへ足をむける。白衣の色はカラマの趣味であった。


(あの人、どう考えても、医療関係者的な着こなしじゃなくて、なんかエッチなものを求めてるのよね)


 ぶん、とビニール袋を振る。中には、表通りのコンビニで買ったプリンやヨーグルトが入っている。2週間前に入院した中国人の女性患者むけだった。


 その患者は、最初のひどい状態から、ほぼ回復して、いまはカラマの自室にいる。古い知り合いなのだそうだ。


(それにしても、ものすごく早く回復したなあ。うちでも珍しいよ)


 葵カラマには、なんども驚かされてきたが、今回のケースは、中でも特別だった。


 角を曲がると、焦げ茶とグレーのタイル張りの落ち着いたビルが見えた。葵クリニックの看板に、ほっとする。


 なんだかんだいって、看護師は、この職場が気に入っていた。葵カラマは10代に見える年齢不詳の女で、変態で男遊びも激しいが、尊敬すべき名医だ。医師としての腕が素晴らしいだけでなく、医療となると普段の放蕩が嘘のように誠意に満ちている。


 エロい服装を要求されたり、強引に合コンに連れていかれたり、わずらわしいこともあるが、それもよい刺激になっていると思う。


 六本木だし、給料もいいし、結婚するまでいるのかな、と、適当に考えながら、看護師は日々それなりに楽しくやっているのだった。




 裏口へ向かうために角を曲がると車椅子が見えた。看護師は体をこわばらせた。


 たしかに、さっきの男だった。白い長袖のポロシャツにジーンズ。全体的に薄汚れていて、このあたりでは、ああいう人はあまり見かけない。


(不審者なのかな……)


 まわりには、ふたりのほかに誰もいない。


 いちど、引き返そうか。そう考えたとき、男は車椅子を回転させて去った。


 看護師はクリニックの扉まで走って、中に入った。電気をつけっぱなしで出たので、白い廊下が眩しく、一瞬、視界がとぶ。小さな三和土たたきで、てきぱきと靴を脱ぎ、傘をたたんで傘立てに入れると、スリッパをはいて息をついた。


 ぞくり、と背筋が泡だった。うしろで水滴の音がする。


(あの人、傘をさしてなかった。ううん、どうして、あの人のことを考えるの。あいつは扉のむこうだ。あっちの通りに行った。わたしには関係ない。ぜんぜん、まったく無関係だ)


 そう自分に言い聞かせて、看護師は廊下に一歩を踏みだした。否、踏みだそうとした。ところが――。


(足が動かない!?)


 足首に黒い煙がまとわりついている。悲鳴を上げようとした看護師の口を赤黒い舌がふさいだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ